燭台切+福島/ハンドクリーム


 花を選ぶ。この本丸の花畑の世話は、花当番の刀たちが担当している。福島はまだ励起したばかりなので、様々な仕事を少しずつ試していた。適性をみてるんだよ。近侍の歌仙が言っていた。
 咲き誇る花を数種、摘み取って、本丸屋敷に戻る。新鮮な水を井戸からもらい、玄関に向かう。玄関には大きな花瓶があるのだ。花当番が季節に合わせて花を飾っていたというそこを、花が好きならと福島に任せてもらえた。
 帰ってきた刀剣男士たちが安堵する場所である。客人を迎える場所でもある。季節と詩情に合わせて、花を選んで飾る。ぱちぱちと園芸鋏を動かしていると、ぱたぱたと騒がしくなる。ああ、刀が帰ってきた。福島はくるりと振り返った。
「おかえり」
「やあ、ただいま」
「光忠だったか」
「うん。駄目だった?」
「全然。全く」
 遠征から帰ってきた燭台切は、隊長の山姥切長義が審神者に報告するというので、風呂に向かった。
 遠征帰りは埃っぽいから、体を清めるのは正解だろう、にゃ。南泉がくあと欠伸をしながら言う。
「誰かのお迎えだったかな」
「べつに。アンタのその花は」
「うん?」
「いや、別に何でもいいんだけど、にゃ」
「そうかい」
「花当番が育てたやつだろ、にゃ」
「そうだね」
「アー、その、花を育てたいのか、にゃ?」
「花は飾る専門だね」
「ふうん」
 分かんねえ、にゃ。南泉の不可解そうな顔に、刀にも個性があるということさと福島はクスクス笑う。南泉は気を悪くすることなく、そういうもんかと玄関から去って行った。

 花を飾り終えると、水の入ったバケツを手に、玄関から離れる。水の処理をして、部屋に戻ると、燭台切が本を読んでいた。
「おかえり」
「ただいま、光忠」
「あなたも光忠でしょう」
 ねえ、おいでよ。そう言われて、何だいと近付けば、手を出してと言われる。手とは。そう思いながら素手を出せば、燭台切が缶を開いた。
「ハンドクリームだよ」
「へえ」
「塗ってあげる」
 そう言われたかと思うと、燭台切は福島の手にクリームを塗り込めていく。乳白色の軟膏だ。福島は、香りがあまり無いなと気がついた。
「手の手入れも、刀剣男士としては考えたいことだよね」
「本体を持つからかな」
「その通り」
 ほんの少しのささくれが、怪我を左右することがある。燭台切の実感の籠もった言葉に、そういうものかと福島は頷いた。
「万屋街で買えるから、好きなクリームを買うといいよ」
「光忠のこれはどういうやつなんだい」
「無香料で、蜜蝋が入ってるやつだね。僕は水仕事が多いから」
「ふうん」
 ぺたぺたと手を揉まれている。クリームを馴染ませるんだ。燭台切は言った。
「はい、できたよ」
「しっとりするね」
「保湿するものだからね」
 慣れるまではベタベタするかな。燭台切の言葉に、すぐ慣れそうだと福島は手を開いたり閉じたりしながら、応えたのだった。

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