燭台切+福島/オレンジの希望


 枯れた花を摘み取っていく。次の花を美しく咲かせるために必要な作業だ。丁寧に一輪ずつ、ハサミで摘み取る。枯れたばかりの花は、まだすこし水分があって、人の心を模した器官が痛む。ヒトというのも厄介だな。福島は苦笑した。
「福島!」
「おや、謙信くん。どうしたんだい」
「おやつのじかんなんだぞ! あれ、そのはな……」
「枯れた花だよ」
「ふうん。まだすこしさいてる?」
「でも、そのままにしておくと実を結んでしまうからね。まだ、実をつけるには早い」
「へえ。そうなのか」
 おやつをたべにいこう。謙信が手を差し伸べる。福島は道具をひとまとめにして、その小さな手をとった。

 おやつは小豆長光特製のみたらし団子だった。甘辛いタレが弾力のあるもちとよく合う。謙信と縁側に並んで食べていると、自然と短刀たちが集まってくる。彼らは謙信に話しかけ、福島に語りかける。どうやら今日は夜戦への出陣があるらしく、担当のものたちはこれから昼寝をするらしい。
「謙信は行かないのかい」
「まだ、れんど、がみんなにおいついてないのだぞ。いべんとでれべりんぐ、だっていってた」
「ふうん。それは俺も言われたな」
「やっぱり。つぎのいべんとはいっしょにしゅつじんかもしれないのだぞ!」
「ふふ、頼りにしてるよ、先輩」
「え、わわっ」
「え?」
 がちゃんと大きな音がする。音の方向を見れば、燭台切が食器を持って転びかけた姿勢を何とか戻していた。どうしたんだろう、珍しい。福島が目を丸くしていると、謙信だけは合点がいった様子で、目を細めた。
「ふふ、燭台切も燭台切なんだぞ」
「へ?」
「ちょっと謙信くん。僕で遊ばないで」
「なんにもしてないのだぞ?」
「もうっ」
 何やら会話している二振りに、福島は何の話なのかと聞き出すこともなく、みたらし団子を食べた。多分、聞かなくてもいいことだろう。何故なら、周囲の短刀たちが、微笑ましそうにしていたからである。
「あれ、今日はみたらし団子なんだ」
「小竜!」
「やあ、小竜くん。美味しいから早く貰ってくるといいよ」
「そうする。でも先に湯浴みしたいな」
「畑当番だったのかい」
「いや、手伝いしただけ。午後は万屋街に大般若と行ってくる。何かほしいものとかあるなら、おつかいするけど」
「特に無いよ、大丈夫。ありがとう」
「謙信は?」
「とくにないのだ!」
「よし、分かった。じゃあ湯浴みしてくるね」
 ひらひらと手を振って風呂に向かった小竜に、謙信が手を振る。福島が燭台切を見ると、燭台切はこくんと頷いて厨へと向かった。これで、取り置きしておいてくれるだろう。

 みたらし団子を食べ終えると、謙信と一緒に食器を厨に運ぶ。すると、燭台切と小豆が居たので、小豆と謙信が本を借りに行くと言ってその場を福島と燭台切に任せて行った。
 燭台切は洗い物をしながら、器用に福島にジュースを出した。本丸で採れた甘橙のジュースらしい。飲むと口がさっぱりとする。酸味が強いので、短刀たちは少ししか飲まないのだとか。
「大人の姿をした刀たちは好きそうだね」
「うん。お酒を入れたりしてるよ。あなたは水割りがいいかなって」
「とても美味しいよ、ありがとう」
「どういたしまして」
 にしても。燭台切は口籠る。何だろうと福島が黙って促せば、そのうと言った。
「先輩って呼ぶひと、いるの?」
「うん?」
「いや、何ていうか。想像できなくて吃驚しちゃったんだよ」
「ああ、さっきの。それを言うなら光忠も先輩だってこと?」
「いやそうじゃなくて、それはそうなんだけど、えっと、ね」
「ゆっくりでいいよ」
「ええっと、先輩とか後輩とか、気にする?」
「いや、特には。そりゃあ、学びたいことは先に励起している刀に聞くけれど」
「うん」
「でも普段は気にしないな。気にした方がいいかな?」
「どちらでもいいんじゃないかな」
「ふむ」
 煮えきらない燭台切の態度に、福島は成る程と頷いた。
「やっぱり光忠も先輩になりたいわけか」
「うう、なんかそう言うと嫌だな」
「でも光忠を慕う刀は多いだろうに。ずっと早く励起したんだから」
「そうだけど、あなただから」
「俺だから?」
 そう、あなただから。燭台切は最後の食器を、洗い終えた。
「あなただから、気になるんだ」
 兄弟。そう呼ばれた気がして、光忠にしては気にしいだなと福島はくつくつ笑った。

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