燭台切+福島/新月の本丸


 痛みを思うと、祈りと成る。

 畑で夕餉に使う野菜を収穫する。太鼓鐘が山盛りの籠を手に持っている。前が見えないと危ないよ。燭台切の言葉に、分かってると太鼓鐘は笑っていた。
 縁側の方を見ると、非番の大倶利伽羅が、本丸に住み着いた猫を観察していた。その隣では、刈り取った花から、種を取り出している福島がいた。いつの間に仲良くなったのと質問したのはつい先日で、福島は彼はいい子だねとしか言わなかった。大倶利伽羅は何も答えなかった。
 鶴丸がたったか走っている。洗濯物を各部屋に運んでいるらしい。獅子王の鵺がビョウビョウと鳴き、夜が待ち遠しいと縁側下の暗闇で丸くなっている。獅子王はというと、鶴丸と一緒に洗濯物を運んでいた。
 歌仙が審神者の執務室から出てくる。頭が痛いと、額を擦る彼に、小夜が何か言葉をかけている。それを聞いた歌仙は少しだけ眉間のシワを和らげた。
「光忠」
 声をかけられる。あなただって光忠でしょう。福島を見ると、彼は花の種を小袋に入れながら、言う。
「今日は新月なんだって?」
「ああ、そうだね」
「早く寝たほうがいいと聞いたけれど」
「この本丸の主くんの霊力は、月の満ち欠けも加味したものだからね。確かに早く寝た方がいいかも」
「そう。じゃあ夕餉の支度を手伝おうかな。この作業は終わりにするから」
「いいよ、花の世話をしてて。主くんも、あなたが花の世話をしてくれることを、喜んでいるからね」
「でも、いいのかい?」
「勿論。夕餉の支度なら、声さえかければ皆が手伝ってくれるからね」
 分かったよ。福島が頷くので、燭台切はさてと大倶利伽羅を見た。猫から目を離した彼は、手伝うと短く言って、厨に向かった。太鼓鐘も、手早く収穫した野菜を厨に運んでいく。燭台切もまた、籠を手に厨へと足を向けた。

 夕餉も風呂も終えた頃。とっぷりと夜に沈んだ本丸は、恐ろしく暗い。流石は、新月なだけはある。どの刀も、慎重に部屋で過ごしていた。いつもなら毎晩本丸のどこかで酒飲みたちが騒いでいるが、今晩は誰しもが様子を見ている。獅子王の鵺だけが、夜の闇の中でひゅうろろろと鳴きながら、活発に何かを追いかけていた。
「光忠?」
 どうしたんだい。福島が首を傾げた。本丸に励起してから初めての新月だ。福島は布団に入っている。痛むかい。そう問いかけると、少しだけさと苦笑していた。
「何かしら、不都合があるとは聞いていたけれど」
「あなたの事だから、古傷が痛むだろうとは思ったよ」
「まだ審神者の霊力に慣れてないのかな」
「そうかもね。あなたは練度も低いし」
「はは、もっと頑張らないと」
「焦りは禁物だよ」
「それはそうだな」
 ひゅうろ、ろろろ。食らいついた鵺の声。福島はそっと体を固くしている。彼は気がついていないが、痛みが強いのだろう。温かい飲み物でも用意するよ。燭台切は廊下に出て、給湯室に向かった。
 玄米茶を手に戻れば、福島は布団の中で丸くなっていた。茶器を机に置いて、そっと彼の額にある汗を手拭いで拭った。
「痛むかい」
「少し、ね」
「それは少しとは言わないよ」
「そうなのかい? 如何せん、初めての事だから」
「たぶん、一晩だめだから、無理はしないで。痛いなら、痛いと言ってね」
 とりあえず、温かい飲み物で体を温めて。燭台切の言葉に、そうするとしようと福島はふらつきながら体を起こしたのだった。

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