燭台切+福島/花瓶騒動


 本丸図書室。数振りの刀によって管理が任されているそこに、福島はやって来た。やあ、またかい。蜂須賀がカウンターで微笑む。
「図鑑はあるかな」
「いつもの棚にまとめてあるよ。意外と借りる刀が多いから、無かったら順番待ちにするから」
「助かるよ、ありがとう」
 どういたしまして。蜂須賀の声を聞くと、福島は本棚の隙間を縫うように歩いた。
 やがて、目当ての本棚に辿り着くと、指先を使ってタイトルを確認していく。目当ての花の図鑑は数種ある。どうやら、二冊ほど借りられているようだ。福島は薄いものを選んで、棚から取り出した。
 カウンターで貸し出し手続きをしてから、図書室を出ようとすると、大包平とすれ違った。彼は、福島を見ると、おはようと挨拶した。
「おはよう、大包平さん」
「花の図鑑か?」
「うん。大包平さんは?」
「これから借りるものを選ぶ」
「見当はつけてるんだろう?」
「探偵小説、だろうか。大衆小説を読むのも悪くはないかと」
「そりゃいいね」
 いい本との出会いがありますように。福島の言葉に、そうなるよう心掛けようと大包平はくつくつ笑った。
「そういえば、燭台切が探していたぞ」
「光忠が?」
「大般若が新しい花瓶を見繕ってきたらしい」
「彼も懲りないね」
「審神者が玄関の花瓶に悩んでいただろう。それに丁度いいものを見つけたらしいぞ」
「大包平さんは見たのかい?」
「いや、俺は未だだな。だが、大般若の見立てなら悪くないだろう。予算は知らんが」
「そうだろうね。じゃあ部屋に戻ってみるよ」
「そうしろ」
 ではな。大包平は図書室に入ると、蜂須賀に挨拶をしていた。福島はさてと、自室に戻る。燭台切と同室なので、彼と会うには自室が手っ取り早いのだ。

 日中動き回っている福島と燭台切が、昼間に自室に戻るのは、お互いに会いたい時である。少なくとも福島はそう自認していた。

 部屋に戻ると、燭台切がああ来たねと顔を上げた。どうやら厨で使う小物を書き出していたらしい。筆を置き、さてと向き合う。福島は花の図鑑を文机に置いた。
「玄関に行ってみる? 一番手っ取り早いから」
「そうするか。花瓶を手に入れたんだろう」
「大般若くんがね、いいものを見つけたからって」
「予算は?」
「オーバーしてるよ。でも、主くんも気に入っちゃって、ふたりのポケットマネーを使ったとか」
「そうか。まあ、運営資金に手を付けていないならいいんじゃないかい」
「そういうことにしておこうね」
 遠い目をする燭台切に、苦労性だなと福島は苦笑した。

 こっちと案内されて、玄関に着くと、秋田が審神者と大般若を正座させていた。どうやら初鍛刀の秋田は、花瓶の出費を注意しているようだ。それを横目に、花瓶に近づく。立派な花瓶だな。福島はまじまじと花瓶を見ながら、どんな花が合うだろうかと考えた。なお、燭台切は秋田を落ち着かせていた。付き合いの長い初太刀なだけはある。
「どう?」
「ああ、今の時期なら……と、ここで話してもな。後で花屋に行くよ。今日はこの後、掃除の当番があるんでね」
「そうだったね。じゃあ花は後日。主くん、大般若くん、秋田くん、落ち着いた?」
 こくこくと頷く正座組と秋田に、燭台切は良かったと息を吐いてから、福島を見た。
「花を買いに行くときは、僕もついていくよ」
「いいのかい? 光忠は忙しいだろうに」
「そろそろ厨当番が交代になるから、暫く暇だよ」
「そう言うなら、いいけれど」
「うん」
 じゃあ随伴してもらおうかな。福島の笑顔に、燭台切は任せてと微笑んだ。

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