燭台切+福島/いちばん/無自覚にお兄ちゃんやってる福島さんがいます


 いちばん。
 本丸の花壇。審神者の霊力で咲く花々は、四季折々、古今東西、全てを無視して、笑っている。
 福島は審神者の執務室に飾る花を選びながら、花壇を歩き回る。今は初春。その頃の花をと、吟味していた。
 花を選ぶと、収穫し、本丸屋敷に戻る。水場で、新鮮な水を貰い、すたすたと審神者の執務室を目指した。
 執務室の前に立つと、珍しく言い争うような声がした。何だろう。福島が眉を寄せると、がたんと音を立てて障子戸が開いた。
「主くんの分らず屋!!」
 そうして振り返ったのは、燭台切だった。あ、と目が合うと、気まずそうに目を逸らされる。足早に去っていく燭台切をぽかんと見て、執務室に目を向けると、文机に縋り付く審神者と、引っ剥がそうとする近侍の加州がいた。

 花を生けながら話を聞くと、どうやら審神者が体調不良らしい。でも仕事が立て込んでててと、加州が息を吐く。それでも、主の体調が一番なので、休ませたいのだ、と。福島は何も言えずに、静かに聞いていた。

 花を生け終わると、道具を片付けた福島は、自室に向かった。おそらく、と考えて部屋に入れば、隅でじっとしている燭台切がいた。近くには太鼓鐘がいて、福島を見ると、茶でも淹れてくると部屋を飛び出した。
「光忠」
 声をかける。燭台切は部屋の隅でずうんと落ち込んだままだ。
「主くんに酷い事、言っちゃった」
「心配だったんだろう?」
「でも、」
「審神者だって分かってるさ」
「そうかなあ。そうは思わないよ。だって、あの人、勘が悪いから」
 歯に衣着せぬ言い分に、福島はそれでもと続ける。
「それでも、長い付き合いなんだろう。分かるさ」
「分かんないよ、きっと」
「何を意固地になってるんだい?」
「だって」
 落ち込む燭台切に、そんなに不安ならと福島は声をかけた。
「光忠の得意なことで、気持ちを表せばいい」
「え?」
「審神者は物の魂を呼び起こすことが出来るんだろう。物が一番、通じるんじゃないかい」
「もの……」
「そうだろう」
「そうかなあ」
「きっとね」
 福島の微笑みに、燭台切は顔を上げた。傷ついた顔をしている。福島はそんな燭台切に声をかける。
「大丈夫」
 そうだろう。そんな肯定に、燭台切はくしゃりと顔を崩した。
「あなたは、たまに、そういう所があるよね」
「うん?」
 敵わないな。燭台切が笑うので、福島はきょとんとした。
 そこで丁度、太鼓鐘が茶を持ってきたので、燭台切は夕餉のおかずを増やそうと相談し始めたのだった。

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