燭台切+福島/休日


 働き過ぎだと、言われたらしい。
「光忠、何してるんだい」
「あなたも光忠でしょ」
「で、何を?」
「休むようにって、言われて」
「そう」
「でも本丸にいたら何かしら手伝うだろうからって」
「うん」
「万屋街か令和ぐらいに行きなさいって」
「ああ、なるほど。だから服に悩んでいるんだね」
「どうしよう」
「光忠の感覚なら間違いないだろう?」
「それは自信があるけど」
「じゃあ、何を悩んでいるんだい?」
「……この頃、働いてばかりだったから、着たい服が多くてね」
「そういうものなんだ」
「うん。そういうもの」
 だからさ、と燭台切は言った。
「あなたも一緒に出掛けない?」
「それは、悩みが解決するとは思えないけれど」
 コーディネートなら任せてという燭台切は、確かに赤疲労だった。

 万屋街。二振りで歩いていると、じろじろと見られた。不躾ではあるが、つい先日に連隊戦の期間が終わったばかりなので、まだ福島光忠は珍しいのだ。
 そんな視線に福島は動じることなく、どこかの獅子王が営む花屋で珍しい花を見ていた。エプロン姿の獅子王が、なあなあと口にする。
「福ちゃんは赤い花が好きなのか?」
「色にこだわりは無いよ。どれも綺麗だね」
「まあな! ちょっとしたまじないを使って、保存してるんだぜ」
「そんなものがあるのかい?」
「おう。福ちゃんのところの審神者にも聞いてみるといいかもな。ところで一振りなのか?」
「いや、光忠と来てるよ。隣の店で調理器具を見てるってさ」
「ははあ、成る程な」
 花屋の獅子王は、それならと口にする。
「隣の店ならウチの歌仙が営んでるんだ。おまけするぜ」
「いいのかい」
「勿論。ミニブーケ、作るから! 好きな花とか、好きな色とかあるか?」
「それは、そうだな……バラとか」
「じゃあバラを中心にしてみるぜ! 時間が入るから、向かいの喫茶店で待っててくれよな」
「喫茶店も知り合いの店かい?」
「主がやってんだぜ」
「あ、そうなんだ」
 じゃあなと手を振られて、福島はまず隣の店を覗く。燭台切が熱心に調理器具を見ていて、歌仙が奥の番台にいた。福島に気がついた燭台切が、もういいのかいと首を傾げる。
「ミニブーケを頼んだよ。向かいの喫茶店で待っていようかなって」
「そう。僕はもう少し見てるよ」
「了解」
 向かいの喫茶店に入ると、初老の男性である審神者が、いらっしゃいと微笑む。店員として働いているのは堀川や和泉守といった若い刀だった。
 福島は窓際の席に座ると、注文を聞きに来た加州に珈琲とケーキを頼んだ。
 艶々としたチョコレートケーキと、熱い珈琲が運ばれてくる。それを少しずつ食べながら、雑貨屋で調理器具を吟味する燭台切を眺めていた。
 燭台切が満足する器具を購入しているであろう頃、花屋の獅子王が店先に出てきた。福島は代金を払って、花屋に向かった。
 これ、と渡されたミニブーケは、赤と白のスプレーのバラに、カスミソウなどを合わせたものだった。
「立派なブーケだね」
「おう。おまけな!」
「本当にいいのかい?」
「いいぜ。代わりに、また来てくれよな!」
 楽しみに待ってると笑う獅子王に、ありがとうと福島は気持ちばかりの代金を渡す。花屋を離れ、歌仙の雑貨屋に足を向ければ、燭台切が出てきたところだった。
「もういいのかい?」
「うん。良い物が買えたよ。あなたは、ミニブーケだね」
「綺麗だろう? 審神者の執務室に飾ろうかな」
「それはいいね」
 主くんは、あなたと同じで、花が好きだから、喜ぶよ。燭台切の太鼓判に、福島はそうだといいなと微笑んだ。
「この後はどうするんだい?」
「お土産を見たいな。来てくれる?」
「勿論」
 じゃあ行こうか。燭台切の言葉に、福島は隣を歩くことで応えたのだった。

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