燭台切+福島/雪の日


 しんしんと、積もる雪。

 深夜。燭台切は目を覚ました。カタリ、物音がして、そちらを見る。するとそこには、雪見障子を開けて、外を見る福島がいた。彼は熱心に外を眺めている。外に何かあるのだろうか。燭台切は起きると、そろそろと福島の隣に座った。
 福島が気がつき、燭台切を見る。
「あ、光忠」
「何を見てるの?」
「雪が積もってきたなと」
「ああ、やっと冬の景趣にしたんだね」
 この本丸の審神者は冬が嫌いだからと、季節のめぐりを無視することが多い。二十四節気の景趣も、冬のものは手に入れるだけで使おうとはしない。それでも、年に数日は冬の日を作るのは、初期刀の歌仙たっての願いだった。ここの審神者は初期刀にすこぶる弱い。
「この目で雪を見るのは初めてだからね」
 ふわふわとしていそうだ。福島が嬉しそうにする。あなたは、と燭台切は小さく聞いた。
「あなたは雪が好きなの?」
 どことなく、聞いてはいけないのかと思い、小声になれば、福島は首を傾げた。黒い髪が揺れて、赤い目が滑らかに開いている。
「特に何かあるわけではないよ」
「そうなの? それにしては熱心だね」
「そう見えるかい」
「うん」
「なら、そうかもしれないね」
 なんだそりゃ。今度は燭台切が首を傾げた。
 しんしんと降り積もる雪を、赤い双眼が眺めている。今の時間は分からない。だが、深夜だからだろうか。ふたりきりの部屋で、静かに過ごすこの刀の、こころのうちに入り込んだような気がした。それはとても居心地が良いけれど、少しの罪悪感があった。入ってはならない場所に入ってしまったような、そんな感覚に囚われる。
 優しくて、兄だと語って、花を好み、愛を知る。そんな刀の内側に。この刀には、こんな静かな面があったのだ、と。
「光忠、起きているなら、温かい飲み物でも持ってこようか」
 福島が言う。もう少し、雪を見ていたいから。そう言う彼に、燭台切は質問する。
「あなたは?」
「二振り分さ」
「それなら僕が用意するよ」
「いいのかい?」
「勿論」
 それなら、お願いしようかな。福島の言葉に、任せてと燭台切は言う。立ち上がり、戸の方に向かうと、真っ直ぐに廊下へ出た。
 冷たい廊下を、歩く。雪が降るほど寒い日だ。つんと冷えた廊下が、いつもより、うんと長く感じた。
 蜂蜜入りのホットミルクでも作ろうか。普段は風邪の刀にしか作らないそれを、作りたくなったのは、謝罪の意を込めてのことだった。福島は、きっとそんなものは必要無いのだろうけれど。
「自己満足だって、いいよね」
 だって僕が作るんだもの。その手間に、愛を滲ませたっていいじゃないか。燭台切は、やや足が軽くなったような気がしたのだった。

- ナノ -