燭台切+福島/いとし、いとしと、想うのなら


 いとし、いとしと、想うのなら。

 燭台切と福島の、光忠兄弟部屋。丁寧に整理整頓されたそこに、福島が花を抱えてやって来た。燭台切がノートから顔を上げる。花束らしいそれに、燭台切は首を傾げた。
「どうしたの、それ」
「審神者に贈られてきたんだけどね」
「主くんに? なんで?」
「さあ……少し確認したいことがあったから、引き受けてきたんだ」
「確認したいことって?」
「光忠、部屋の窓と戸を閉めてもらえる?」
「いいけど、何?」
「多分、刀剣男士には効かないやつだから」
「……オーケー、ちょっと待ってて。その類の札なら常備してあるよ」
「考え過ぎならいいんだけど」
「あなたが花のことで間違えることはないでしょ」
 燭台切が札を使って窓や戸を閉める間に、福島は大きな白い紙を広げて花束を置いた。
 閉め切った部屋で、福島は花を仕分ける。
「呪いの類はこれかな」
「クロユリだね」
「こっちは毒」
「トリカブトとかだね」
「毒草は仕方ないから紙で包むとして、呪いか……」
「御神刀を呼ぶかい?」
「いや、そこまでじゃないかな」
「どうするの?」
「呪い返ししよう。審神者に害を加えようとしたんだからね」
「そんな事できるの?」
「大したことじゃないよ」
 福島は普段フラワーアレンジメントに使っているリボンのうち青いものを取り出すと、しゅるしゅると適量を切り取り、呪いがかけれた花をまとめる。そして、きゅ、きゅ、と見たこともない結び方をした。何だろう。結ぶというより、折る作業が多く見えた。燭台切が瞬きをする間に、それは終わった。
「あとはこれを、こうする」
 ぱちん。クロユリの首を、ハサミで切り落とした。
「それだけ?」
「うん。これだけだね」
 でも、手順は守ったよ。福島が笑むので、ああこの刀はと燭台切は苦笑した。
「とっても怒ってるね」
「当然だよ。でも、返せたから安心かな」
 花を使うなんて。福島はそう言いつつも、あまり相手を罵るような言葉は使わなかった。そして紙を畳んで花を片付けると、さてと立ち上がる。
「身を清めてくるよ」
「まって、ついてくよ。禊なら川だよね。こんな時間から一振りじゃ危険だもの」
「そうかい? ありがとう、光忠」
「あなたも光忠でしょ」
 そして、福島は言う。
「審神者にはきちんと事情聴取しないとね」
 その目は笑っていない。ああ、本当に怒ってるんだなあ。燭台切は苦笑するしかなかった。

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