燭福/奥底/R15かもしれない


 蝉時雨、けたたましい叫声。彼は笑う。

 その刀を見た瞬間に、燭台切は彼が兄弟であることを理解した。刀と刀が、奥底で繋がる感覚。それは人で言う、血なのだろう。玉鋼と、炎と、水で出来た刀剣男士の、血縁だなんて笑ってしまう。その上で、燭台切は理解したのだ。彼は、兄弟だ。

「みっちゃんは福ちゃんが嫌いなのか?」
 太鼓鐘が不思議そうに言う。そんな事はないよ。燭台切は素麺を洗いながら答えた。
「あの刀は良い刀だよね」
「じゃあ、なんでお兄ちゃんって呼ばないんだ?」
「それ、聞いてたの?」
「福ちゃんが寂しそうにしてた」
「というか、貞ちゃんは彼をそう呼ぶんだ」
「福ちゃんが呼んでって言ってたぜ」
「そう」
 素っ気無い燭台切に、太鼓鐘はぱちくりと瞬きをする。蜂蜜のような目で、燭台切を見つめていた。
「何かあったのか?」
「いや、何も」
「そうなのか?」
「うん。何もないよ」
 そうなんだ。太鼓鐘はそう言って、そういや薬味を揃えないとなと食料庫を開いた。

 夏の昼下りの、本丸。燭台切が夕餉の野菜を収穫に向かうと、隣の花畑に福島がいた。大包平と共に、花畑の世話をしている。鶯丸が木漏れ日の下で、そんな大包平を観察していて、相変わらずだと燭台切は苦笑した。

 消灯時間。夏の夜。灯りを落とした本丸を歩く。部屋に戻ると、福島が机から顔を上げた。
「光忠、おかえり」
 とろんと笑う福島に、ただいまと告げた。風呂も済ませた福島は寝間着姿で、この姿を見るのは燭台切ぐらいだ。その優越感に、燭台切は良くないなと思う。
「光忠、夜風は体に良くないよ」
「うん。そうだね」
「どうしたんだい?」
 戸口に立ったままだった燭台切は、何でもないよと部屋に入った。
 光忠兄弟の為にと、審神者が整えた二人部屋。そのうち兄弟が増えるかい。近侍をしていた鶴丸が笑っていた。燭台切としては、可能性が無いわけではないねと答えておいた。
 布団を敷いた部屋で、福島は花の図鑑を見ていた。今の世、品種改良された園芸種がこんなにあるんだねと、福島は興味深そうにしている。野菜もそうだねと、燭台切は彼の隣に座った。福島は気にした様子もなく、あれこれと話している。慣れている、というより、燭台切が慣れさせたのだろう。また、優越感。あまり良いものではない。
「ねえ、」
「うん?」
 福島がまた、燭台切を見る。燭台切はそっと彼を引き寄せた。抱きしめ、密着する。寝間着の隙間を狙って、肩に顔を埋めて、じゅっと吸った。
「光忠?」
「ついた」
「それ、好きだね」
 好きなだけつけていいよ。そう笑う福島は、この花びらの意味をきちんと理解しているのだろうか。だが、許されていることが、嬉しくて、燭台切は何も言えなかった。格好悪いかな、思わずぼやけば、格好良いよと福島がすぐに応えた。
「光忠は、可愛くって格好良いよ」
「ありがとう。でも、あなたも光忠だよ」
「そうだね」
 福島の肯定がまた、嬉しくて。燭台切は、抱きしめる力を強くしたのだった。

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