燭台切光忠+福島光忠/あなたらしくありたい/習作その2です。/太鼓鐘さん、獅子王さん、愛染さんも出てきます。/何もわからないまま書いてます。書きながら解釈固めるタイプなので見守ってくださると嬉しいです。


 花を飾ろう。とびきりの花を。

 とんとん。燭台切の足音はいつもリズミカルだ。その音を聞くと、福島はそっと顔を上げる。花畑を通り過ぎて、審神者に食事を運ぶ姿は、いつ見ても可愛らしい兄弟だった。
 春の本丸。園芸の作業を終えると、泥を落として、本丸屋敷の大風呂に入る。体を洗ってからざっと湯船に浸かると、福ちゃんさんだと太鼓鐘が寄ってきた。
「おや、貞ちゃんくん」
「こんばんは、福ちゃんさん! また園芸か?」
「そう、また、さ。きみは?」
「不寝番があるから、早めに風呂に入ってんだ」
「へえ……夜の番は短刀が多いね」
「ま、夜戦適正があるしなー」
「なるほど。昼間もあれだけ強いのに、夜はもっと強いんだね」
「福ちゃんはまだ夜戦出たことないのか? まあ、太刀は不利だから出さないか」
「そういう事だろうね」
「そういや、部屋は決まったのか?」
「ああ、光忠と同室になるみたいだよ」
「そっか。みっちゃん、家族だって喜ぶかな」
「さあ……長船には他にも刀がいるだろう。みんな大事な家族じゃないかな?」
「でも兄弟は特別じゃないか?」
「きみにとって、そうなのかい?」
「兄弟といると、なんかこう、ふわーって気が抜けるんだぜ」
「そうなんだ」
「福ちゃんは違うのか?」
「どちらかというと、格好良くありたいかな」
「わはっ! 流石はみっちゃんの兄弟!」
 太鼓鐘はひとしきり笑うと、でもと口にした。
「辛いとか、苦しいとか、あったら教えてくれよ」
 相談には乗るから。その頼もしい声に、助かるよと福島は笑みを浮かべた。

 風呂から出て、夕餉を食べに行く。どことなく、お腹が減ってないな。ぼんやりと思いながら、福島は一人で卓についた。ゆっくりと箸を進めていると、福ちゃんだと声がする。顔をあげると、獅子王がよっこらと同じ卓についていた。相棒の鵺は放し飼いだと聞いている。見当たらないのは当然だが、鵺がいないと彼はとびきりやせぎすに見えるので、少し不安になった。
「獅子王さん?」
「おう! 呼び捨てでいいぜ」
「それは嬉しいな」
 獅子王はにこにことしながら、夕餉を食べ始める。カッカッと食べる姿は、彼が姿に見合わず健啖家だと分かる。そして、一通り食べてから、きょとんとした。
「食べないのか?」
「食べてるよ」
「でも全然進んでないし……今食べられないなら、後で食べさせてもらったらどうだ?」
「でも、折角作ってくれたのに」
「励起してまだ日が浅いだろ。不安定なのは何も戦での身のこなしだけじゃない。日常生活もだ、ってな!」
「そうかな」
「そういうもんだぜ」
 厨番に言っておくと、獅子王は言った。世話好きな刀だ。福島はその言葉に甘えることにした。

 励起してまだ数日の、福島の部屋は仮部屋だ。燭台切と同室になることがようやく決まったが、引っ越しはまだ先である。
 早めに寝てしまおう。福島はテキパキと部屋着に着替えた。
 布団を敷いて、ごろりと寝転がる。そのまま目を閉じて、呼吸をする。

 ぐう。福島は目を開いた。腹が減って眠れないのだ。夕餉の時は食欲が無かったのに。
 渋々起き上がると、上着を羽織って、福島は自身が残した夕餉を食べに食堂へと向かった。

 食堂には明かりが灯っていた。誰かいるのか。そう思って覗くと、おっと素早く小さな影が振り返った。
「よっ! 福ちゃん!」
「ええと、愛染くんだったかな」
「そうだぜ! 福ちゃんも夜食か?」
「そんなところ。愛染くんは?」
「見ての通り、おにぎり作ってる」
 ほらと向けられた視線の先には、大皿があり、いくつものおにぎりが握られていた。少々不格好で、小さめのそれは、不寝番の刀たちのためらしい。
「この時間だと、普段厨番してるやつらは寝てるからさ、短刀が作ることになってんだ」
「そうなんだ」
「福ちゃんの分も作るぜ!」
「でも夕餉の分が……」
「なあ、福ちゃん。爆弾おにぎりって知ってるか?」
 にっと、愛染は笑った。

 爆弾おにぎりと言う名の巨大なおにぎりを、愛染は器用に作った。具材は夕餉の焼き魚だ。冷めた味噌汁を温めてくれて、ついでに葱を少し足してくれた。
 ぱたぱたとおにぎりを作っていく愛染と喋りながら、夜食を食べる。すんなり食べ終えると、洗い物はやっておくと愛染が言って聞かないので、甘えることにした。

 部屋に戻るものの、ひとりのがらんとした部屋で、福島は布団の上に座ったまま、動けなかった。
 とてもじゃないが、眠れそうにない。眠気が無ければ、どこか胸がざわざわとして落ち着いていられなかった。
 畑でも見に行こうか。花の世話をしてもいい。そう思って部屋の外に出る。

 あれ、と声がした。聞き覚えのある声に振り返れば、寝間着に羽織り姿の燭台切がいた。

「眠れないの?」
「そうみたい」
「そっか」
「肉の器ってのも大変だね」
「今日、突然?」
「うん。励起してこの方、かな。すぐ寝る方だと思ってたんだけど」
「じゃあ、少し散歩しようか」
「……散歩? 夜に? 景色を楽しむには、俺たちは夜目が効かないだろう」
「でも全く見えないわけじゃないよ」
 月明かりに、二振りで歩く。ぽつぽつと、燭台切が本丸の話をしてくれた。その楽しげな様子に、太鼓鐘の言葉が思い出される。
「無理をしてないかい?」
「うん?」
「俺といると気を抜いてくれるのかい」
「あなたは?」
「俺は、すこし、兄弟らしく、ありたいと思う」
「そっか」
「なあ、光忠は?」
「どうだろうね?」
「なんだそりゃ」
「うん。何だろうね」
 どういうことだろう。福島が首を傾げると、燭台切は照れ臭そうに笑った。
「あなたの前では、立派な光忠でありたいな」
 なんだ、同じだったのか。
 福島はその姿に安心して、ようやく眠たくなってきたのだった。

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