燭台切光忠+福島光忠/幸福とは何たるか/燭台切さんと福島さんが別々の本丸所属です。/回想ありがとう……ありがとう……。/習作です。細かいことは分からない。


 人が人を好きになる時に、理由はない。
「じゃあ、家族になるのは?」
 別に、なんてことはない。何て、事は無い。

 まだ、冬だ。景趣に興味のない審神者は、とりあえず四季だけは揃えたと言い張る。燭台切としては、畑だけでも環境を整えてくれたら、最低限の評価はしようと思うことにしている。なお、歌仙はまだ説得を続けているらしい。

 雪深い本丸。ここ数日は、年末年始の連隊戦の追い込みだった。すでに二十五万玉を越えていて、あと少しだと戦場を極短刀が中心となって駆け抜けている。
 十万の時点で、福島光忠の励起権が手に入ったが、審神者はそれまでのこの本丸の通例として、全ての報酬が手に入るまで、刀を封印した。曰く、忙しい時期では歓迎の宴も出来ないから、らしい。審神者は季節に無頓着なのに、宴が好きだった。

 だから、刀剣男士の福島光忠を、燭台切光忠は知らない。かつて見た福島の姿を、燭台切はあまり覚えていないのも、ある。刀身だけは、この魂に刻まれている。肉体を得た福島光忠を知り得ないのだ。歴史が、そう物語っている。
 詳しいことを、言うつもりはないけれど。

 冬の廊下を歩いていると、ふわりと花の香がした。花だって? 燭台切は眉を寄せた。この本丸で花を愛でるのは、代表としては歌仙たち歌の会だろうか。だが、今は匂いの強い花を管理できるような時期ではない。連隊戦はそれだけ本丸総出の大仕事である。
「そこに誰か居るのかい」
 声がした。燭台切は聞き慣れないその声に、瞬きをする。誰だろう。興味と、一抹の不安。侵入者かもしれないと、気を引き締める。
 するりと、戸が開いた。ハーフアップのような髪型。黒い髪、赤い目。あ、と燭台切は口を開いて止まった。
「おや、この本丸の光忠か」
 そう言われて、気がつく。彼は、霊力が違った。
「あなたは、他所の本丸の?」
「そうだよ。お使いを頼まれてね」
 にこりと笑む彼に、燭台切はそうと目を伏せた。ざわりと胸の内を竹箒で触られたような気がした。
「審神者ってのは大変だね。今は面会待ちだよ」
「とすると、近侍の加州くんが?」
「うん」
「僕からも話しておくよ」
「助かるよ。あまり長居は出来ないんだ。こっちの審神者はあまり強くない」
「体が、ってこと?」
「そう。霊力はとびきりさ」
 ばちんとウインクされて、燭台切は苦笑した。苦労するね。そういえば、そうでも無いさと返ってくる。
「本丸ってのは楽しい処だよ。古今東西、色んな刀がいる。こんなに賑やかなのはいつぶりだろう」
「そう?」
「光忠は違うのかい?」
 真っ赤な目が、燭台切を見る。ああ、この刀は。燭台切は唯、眉を下げた。
「しあわせ、かい?」
 彼が問う。燭台切は答えられない。
 人が人を好きになる時に、理由はない。
 人と人が家族だと言われて、納得できるのか。
 でも、本能が叫ぶのだ。此の刀は家族なのだ、と。
「仕合わせはこれからだよ」
 目の前の刀は、笑った。
「そりゃいいや!」
 冬の冷たい空気が、花の香を柔らかく運んでいる。

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