長義+大包平/金木犀/堀川くんと獅子王くんもいる


 凛とした立ち姿が、羨ましかった。
 長義がこの本丸に励起して、しばらく経った。それなりに、この本丸に馴染んだかと認識している。だが、馴染めない刀がいた。それは長義の遠い縁者となる刀。大包平だった。
 彼はいつも誰かと共にいた。毛利、鳴狐はもちろん。鶯丸もよく隣にいた。別に、生活にも戦場にも、支障は無い。大包平は修行待ち要員として、たまに遠征に出る程度だった。普段は家事や鍛錬など、本丸全体の為になる活動を行っている。立派な刀だと、思う。
「会えばいいのに」
 堀川が口にする。無理だよ。とは言えない。だが、察しの良いこの刀は気がついているだろう。長義のレベリング部隊で共に戦場を駆け抜けた堀川は、長義の良い相談役だった。新刀向けの教育係はこの本丸には存在しないが、長義にとっての教育係は堀川だった。
「良い刀だよ」
「わかるよ」
「絶対邪険にはしないね」
「でもいつも働いているから」
「それでも大丈夫」
 洗濯物を干し終えた堀川は、それじゃあ行こうかと籠を持って笑う。
「どこに」
「大包平さんなら、今は東屋の手入れしてるから」
「え?」
「厨に行くまでに通り掛かるし、行こう」
 送るよ。堀川の言葉に、長義は分かったよと息を吐いた。こういう時の堀川は絶対に引かないのだ。
 東屋は秋の景趣の隅にある。薄い香を感じながら、進む。堀川は頑張ってと長義に言って、厨に用向きを聞きに行った。
 するりと戸を開く。ぶわ、と香の匂いがした。これは、何の匂いだろう。古い香りではなかった。
「あ、長義だ」
 明るい声がする。獅子王が金色の髪を揺らしていた。奥では大包平が拭き掃除を終えたところらしかった。
「どうかしたのか」
 大包平の凛とした声がする。大きく、ハッキリとした声だった。長義だけに向けられたその声と、鋭い目に、長義はたじろいだ。戦場ならまだしも、本丸で劔らしい目を見ると、そのギャップに息を呑む。
「俺が掃除道具を持ってくぜ!」
「助かる」
「じゃあ長義も大包平もまたな」
 獅子王がたったかと去っていく。長義はそっと大包平を見上げた。大包平は小首を傾げている。長義は、はくりと息をした。
「貴方と、話をしたかった」
「そうなのか」
「一度で良かった」
「欲の無いやつだな」
「貴方は、いつも凛としているから」
「当たり前だ。俺は大包平なのだからな」
「そうだね」
 その通りだ。長義が苦笑する。大包平は不思議そうだった。
「特に用がないなら、外に昼餉を食べに行くぞ」
「いいのかい?」
「買い物を頼まれているんだ」
 そのついでだからな。大包平が言うので、分かったよと長義は嬉しそうに笑みを浮かべたのだった。

- ナノ -