三日月+獅子王/雪の神様/謎パラレル/12.2獅子王記念日おめでとうございます
!死ネタ!
流血表現や残酷表現などはありません。


 とある晩秋の頃。愛染国俊を隊長に、三日月宗近、鯰尾藤四郎、骨喰藤四郎、大倶利伽羅、歌仙兼定の六振りが戦場へと向かうために時空ゲートをくぐるとそこは雪山だった。
 急いで愛染が審神者に連絡を取ると、どうやら時空ゲートの誤作動が起きたらしく、帰還ゲートが開くまで待機となった。愛染達は寒い寒いと言いながら会話をして暇を潰していたが、三日月だけはきょろりと辺りを見回して、懐かしい気配がすると言いながら歩き出した。それにすぐ気がついて、待ってくださいと鯰尾と骨喰が追いかけ、さらにその背中を愛染達が追った。
 雪の中をまっすぐ進む三日月はふと真白な雪がやわらかく山となった場所で立ち止まり、そこにあった黒く美しい拵えの刀を手に取った。
「懐かしい刀だ。きっと鳴狐と厚も懐かしがるだろう」
 鯰尾がどろっぷですねとはしゃぎ、骨喰がそうだろうかと首を傾げる。愛染達も合流すると、歌仙は雪の中に刀を放置するなんてと怒り、大倶利伽羅もまた眉を寄せていた。その時、帰還ゲートが開くとの合図が愛染に届き、六振りと一振りの刀は本丸へと帰還した。

 本丸に戻ると出迎えた審神者とその近侍の加州に刀を預け、二人が顕現する為に用意した部屋へと向かうのを見届けてから、六振りは冷え切った体を温める為に湯殿へと向かった。そして顕現に審神者がかかりきりとなるため、しばらく出陣が無い六振りは各々自由に暇を過ごした。

 顕現に成功したのは夜中だった。三日月がもう時間も遅いと声をかけに行ったところ、ちょうどその刀が姿を現した。加州の手で開かれた襖の向こう、目が会うとにこりと笑った刀は少年のようだ。
「お、この本丸の刀か? 俺の名前は獅子王! 」
 よろしくなと笑った獅子王に、俺もまた笑う。
「俺の名は三日月宗近という。よろしく頼む」
 三日月と獅子王が笑顔で挨拶を交わすのを見て、加州は三日月に獅子王を任せたと言って部屋の中に戻ってしまった。はてどうしたものかと二人が首をかしげると、加州がひょいと顔を出した。獅子王は離れの一室が部屋だからね、と。
 三日月は獅子王を連れて歩く。ひやり、どこからか涼しい風が吹いた気がした。秋も終わりだからだろうか。
 ちなみに、この本丸には三つの離れがあり、雪月花の名が付いている。そのうちの月の部屋は三日月が住んでいるので、残るは雪と花。ならばと三日月は雪の部屋に獅子王を案内した。
「雪の中に在ったお前らしいだろう」
「ああ、ぴったりだと思うぜ! 」
 しかしそこで獅子王がふあと欠伸をする。それを見て、もう夜も遅いからなと三日月は笑い、二人はそこで別れたのだった。

 次の日、三日月が起き上がるととんとんと軽い音を立てて獅子王が三日月の部屋にやってきた。曰く、腹が減ったが食堂が分からないと困り顔の獅子王に、三日月は笑って待っていろと告げて内番着に着替えると、並んで食堂に向かった。その際、隣を歩く獅子王から、朝の涼しさではないひんやりとした空気が漂ってきたことに、三日月は気がついて、はてと首を傾げた。

 二人が食堂に入ると半分ほどの刀剣男士が集まっており、皆が獅子王に注目した。しかし主から正式な紹介があるよと加州が呼びかけると、皆はソワソワしながらも席に着いた。
 審神者がやって来ると食事が始まるが、今日は新入りである獅子王の紹介があった。審神者は獅子王を隣に呼び、簡単な説明の後、いつもなら軽い質問時間を設けるのだが、今回は違った。審神者曰く、この獅子王は特例らしい。戦場でもない雪の中にあったからなのか、この獅子王は雪のような存在だと言う。つまり、肌はひやりと冷たく、春には溶けてしまうだろうと。
 皆が驚きに目を丸くしていると、審神者は難しい顔で続けた。政府には報告していないので、自分たちでこの獅子王の一生を見守りたい。そう告げると、審神者の隣に立っていた獅子王がへらりと笑って頼むぜと言った。皆がそれぞれ頷いたり、任せろと胸を張ったりしている中、三日月はやはりなという気持ち半分そんな馬鹿なという気持ち半分に朝食を食べ進めた。

 朝食の後、獅子王と三日月は並んで縁側に座っていた。今は晩秋、じきに冬になる。涼しい風に、獅子王が良い風だと笑う。三日月もまた、そうだなと笑った。

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 数日後、本丸は冬となった。獅子王は雪投げにかまくら作りに雪像作りにと、雪遊びに毎日駆け回り、短刀達の英雄だった。また、獅子王は火鉢を嫌がった。温かいもの、熱いものが苦手で、風呂は水風呂で済ませていた。ただ、水風呂でものぼせていたのだが。
 また正月になると獅子王も皆と同じように餅を食べた。冷ました餅でもその独特の食感を味わい、面白いと笑った。そして審神者にお年玉をもらいに行く短刀たちに続いて突撃し、ちゃっかりとお小遣いを貰っていた。そのお小遣いを手に、獅子王は三日月を誘って町へと下りると、店先に飾られていた一輪挿しの花瓶を買った。素早い判断に、それでいいのかと三日月が問いかけると、黒くて金色が入ってて刀の俺みたいだからなと獅子王は明るく笑った。

 そんな日々の中、獅子王は三日月をよく頼っていた。何かあれば三日月の元へ行き、何も無ければ共に茶を飲んだりしていた。
 二人は仲良しだねと笑ったのはあの時共にいた歌仙だった。
「そうだろうか」
 三日月が首を傾げると、歌仙は優しく笑っていたが、すぐに目を伏せて何でもないとその場を立ち去った。

 そして季節は巡り、春。温かな日差しが差し込むようになると、獅子王は寝込むようになった。とても眠たいんだ、獅子王は言う。なので三日月は隣に座り、春めいていく外の景色を伝え続けた。獅子王は初めから分かりきっていた自分の最期が近いことを悟ったらしいが、それ以上に春というものに興味津々だった。
「昔、あの博物館で三日月たちと見たという桜はもう咲いてるのか」
「いや、まだだ。蕾があるから、もしかしたら見れるかもな」
「そっか」
「代わりと言っては何だが、梅を持ってきたぞ」
 そうして三日月が差し出した赤い梅の花に、獅子王は目を輝かせて喜び、部屋に飾ろうと言って起き上がった。ふらふらしながらも部屋の中にある、あの一輪挿しに梅の花を生ける。その姿を三日月がじっと見ているのに気がつくと、獅子王は振り返り、ありがとうと笑った。

 さらに無情にも時間は流れて行く。もう、桜の蕾が膨らんできていた。
「もう少しで咲くだろう」
「そっか」
 見たいなあと微笑む獅子王は、もう起き上がることすらできなくなっていた。雪の中で走り回っていた英雄の変わり様に、三日月は目を伏せるしかなかった。

 そしてとある日、三日月が己の部屋を出ると桜の花が一輪だけ、ぽつりと咲いていた。それを見た瞬間に、こんなに急いだことはないというほどに急いで三日月が雪の部屋に行くと、そこには息も絶え絶えな獅子王がいた。三日月が近寄ると、虚ろな目で宙を見つめていた。その様子に助けを呼びに行こうと判断した三日月が立ち上がろうとした時、獅子王がか細い声で呼び止めた。
「俺、じっちゃんに言われたんだ。刀剣男士としてじゃなくて、ただの獅子王として暮らしてきなさいって。そこにお前の幸せがあるだろうからって。そんなの嘘だって思ってた。けれど、ここで過ごして、すっげえ楽しかった。三日月、俺を見つけたのがお前でよかった。お前といられて本当に良かった」
「待て、待て獅子王、死んではならん」
「ああ、じっちゃんが呼んでる。じっちゃん、じっちゃん今帰るよ」
 三日月、いつかまた、会う日まで。獅子王は微かに笑ってそう言うと、はらはらと雪の様な光の粒となって消え、布団の上にはただの刀が転がっていた。


 雪の部屋。集まった皆は審神者の言葉に耳を澄ませる。その刀にはもう付喪神が居ないと、明言した。
 それを聞いた加州が雪の間に飾っておこうかと提案した。その提案に、部屋の掃除なら俺がやると愛染が手を挙げ、それだけじゃ心配だからと鯰尾と骨喰、そして歌仙兼定も手を挙げた。そして、このメンバーなら大倶利伽羅もだよねと鯰尾が言い、愛染が三日月を見上げる。
「雪の部屋、掃除担当隊長は三日月だな! 」
 その言葉に三日月は目を見開いてから、優しく笑って、勿論だと震える声で告げた。
 告げたその直後に、はらはらと流れ出した涙を、皆は同じように涙をこぼしながら見守った。ああもうあの獅子王はいないのだ。雪の中を夢中になって駆け回り、それでいて雪の様に儚い。そんな特例のあの子にはもうきっと二度と出会えないのだ。三日月は止めどない涙を袖で拭うことなく、ぽたぽたと落とし続けたのだった。

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