姫鶴+小豆/シークレット・ガーデン/収穫

 花が咲く。

「姫鶴さん、あの、」
「ねえ、ごこ。これどこ運べばいいの」
「えっと」
「手伝っていただけるの、でしたら……こちらへ……」
「ん」
 江雪に言われて、姫鶴は籠に山盛りのハーブを小屋に運んだ。

 花園の小屋では加州と小豆が、収穫したハーブなどを乾燥させる準備をしていた。どうしても雑草が入り込むから。加州は慣れた手付きでハーブを纏めていく。小豆もテキパキとハーブを束ねていた。
「きゅうけいじかんになったら、すいーつをはこんでこよう」
 汽車の怪異の後遺症はもう無くなった。低くて穏やかな声音が、心地良い。姫鶴は笑みを浮かべた。
「収穫時期はいくらいても手が足りないんだよね」
「この花園、何でも咲いてるじゃん」
「一応、草花が育つ時間は要るの。で、枯れることもあるし」
「種が、出来るということですっ」
「ふうん」
「まあ、四季狂いの花園だけどさ、それでも時間と命は巡ってるってこと」
 そこで、小屋の時計がポーンと鳴った。休憩時間だ。

 小豆が本丸屋敷に戻る。姫鶴もその後をちょこちょことついて歩いた。今日のお八つはカステラだった。
「きのう、やいておいたのだ。つぎのひのほうが、なじむからね」
「そうなの?」
「やきがしはたいていね。さあ、きりわけてはこぼうか」
 お八つ目当てに食堂に刀たちがやって来る。燭台切が厨にやって来て、花園に用事でしょうと言う。
「こっちは任せて。庭当番が忙しいって話は聞いてるよ」
「ありがとう、おとうさま」
「どういたしまして。姫鶴さんも、庭仕事は慣れないでしょ? 頑張ってね」
「ん、分かった」
 カステラを切り分けて、小豆と姫鶴は花園に向かった。

 コツコツと歩いて、細い金属の扉を開く。ぶわり、花の匂いがする。華やかな香りは出入り口付近のバラの香りだ。バラも収穫時期だと五虎退が言っていた。姫鶴としては、バラを収穫するなんて考えもしなかったので驚いた。どうやら香りを抽出するらしい。
「姫鶴?」
 きょとんと小豆が立ち止まる。いつの間にか足を止めていた姫鶴は、今行くと歩き始めた。

 今日の庭当番は江雪と五虎退だ。加州も庭当番の一振りだが、今日は手伝いである。他の庭当番は皆が出陣や遠征などの仕事があった。
「すいーつのじかんだよ」
「わ、カステラですかっ」
「おや……美味しそう、ですね……」
「手を洗ってくる。五虎退と江雪もね」
「わたしたちも、あらためてあらおうか」
「ん」
 小屋の水道で手を洗う。消毒もして、席についた。小豆がどうぞと言うと、皆が挨拶をしてからカステラに手を伸ばした。
 姫鶴もカステラを手にして、かぷりと齧り付く。しっとりとしていて、卵の味が感じられる固めの生地に、ザラメがたっぷりとついている。
「うま」
 思わず姫鶴が呟くと、おいしいならよかったぞと小豆が安心したように笑った。五虎退と江雪と加州も、とても美味しいと言って、嬉しそうにしていたのだった。

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