姫鶴+小豆/秋のチョコレート


 姫鶴は、くあと、欠伸をした。
「うはは、気が緩んでるな」
「何?」
「まあそう睨むな」
「加州くんのとこ行くんでしょ」
「坊主には世話になってるからな。あとそうだ、お前さんに渡そう」
 何を。姫鶴が眉を寄せると、ずいと紙袋を差し出された。
「チョコレートだ」
「ちょこれーと」
「赤色の箱を選んだぞ」
「はあ」
「まあ好きに食べてくれ。ではな」
「え、ちょっと」
 去っていく則宗に、姫鶴は仕方ないかと紙袋を持ち直した。

 長光部屋に行くと、小豆と燭台切がいた。どうやら夕飯の打ち合わせをしているらしい。姫鶴に気がついて、やあと挨拶する二振りに、邪魔したかなと、ぼやくとそんな事はないと否定された。
「どうしたんだい?」
「ん、これ貰った」
「わ、予約限定のチョコレートじゃないかい!?」
「えっ」
「わあ、すごいぞ」
「いや、俺、知らない」
 どういうことかと二振りが首を傾げるので、姫鶴は則宗に押し付けられた旨を話す。あの刀も不器用だねと、聞き終えた燭台切は苦笑した。
「それにしても、姫鶴さんは何かあると小豆くんに見せに来るよね」
「ああ、そういえば」
「そお?」
「とりあえず、山鳥毛さんではないよね」
「まあね」
「謙信と五虎退なら、じぶんから姫鶴のもとにかけよるからねえ」
「そうそう」
「あ、確かに」
 姫鶴がぽんと納得すると、燭台切はそれじゃあ僕は行くねと立ち上がる。いいの。姫鶴が問いかけると、大丈夫だよと燭台切は笑っていた。夕飯はちゃんと食べるんだよと言って、彼は長光部屋を出て行った。
 小豆が、ちょこれーとならと温かい紅茶を用意する。部屋にある簡易の台所で湯を沸かす音を聞きながら、姫鶴はとりあえずちゃぶ台を出した。
「大般若は?」
「かいだしだよ。めききがたしかだからね」
「へえ」
「さて、たべようか」
「俺も中身をよく知らないんだけど」
「じゃあいっしょにひらこうね」
 紙袋から出してちゃぶ台に置く。赤色の紙箱をそっと開くと、中には艷やかなボンボンショコラが詰まっていた。
「……すごい」
「きれいだね」
「あつき、どれ食べる?」
「姫鶴がもってきたのだから、さきにえらぶといいんだぞ?」
「ん」
 姫鶴は迷った末に、深い赤色でコーティングされたチョコレートを手にした。いただきますと挨拶をしてから食べる。ころりとしたチョコレートを噛むと、じゅわりとベリーソースが溢れた。驚きで目を丸くすると、小豆が微笑ましそうにしている。
 咀嚼し、飲み込む。小豆はヒマワリをモチーフにしたチョコレートを選んだ。ぱくりと食べると、ふふと嬉しそうにする。
「ぷらりねだ」
「ぷらりね?」
「なっつだね。へーぜるなっつとか、あーもんどとか」
「ふうん。おいし?」
「おいしいよ」
 良かった。姫鶴が安堵すると、つぎはなにをたべるかいと小豆が誘導した。

 紅茶を飲みながらチョコレートを食べ終える。量が少ないぐらいで丁度良いのだろう。姫鶴はふむと頷いた。
 小豆の嬉しそうな顔を見れたことだし、礼を考えなければ。
「礼をしなきゃ」
「そうだね。わたしも、なにかおれいをしないと」
「あつきはすいーつ渡すんでしょ」
「ばれたか。姫鶴は?」
「俺は、うーん」
 どうしようかと悩む姫鶴に、なやむといいよと小豆は笑った。
「たくさんなやんだほうが、則宗さんがよろこぶものがみつかるよ」
「えー、そう?」
「きっとね」
 さて、ゆうげをつくりにいかないとね。小豆が立ち上がるので、頑張ってと姫鶴は見送った。

 長光部屋に残った姫鶴は、チョコレートの箱やちゃぶ台を片付けると、返礼の参考を聴くために南泉を探したのだった。

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