姫鶴+小豆/ミックスフルーツゼリー


 甘い匂いがする。
 いくらでも手を加えられる本丸とはいえ、残暑が厳しい季節だ。姫鶴が午睡から目を覚ますと、謙信がお菓子を持ってきたところだった。謙信が丸い目をさらにまあるくする。隣には五虎退もいた。
「あ、姫鶴がおきたんだぞ!」
「わわ、おはようございすっ」
「ん。おはよ、けんけん、ごこ」
 五虎退はポットから冷たい茶を淹れていた。五振り分のその中から、一振り分のお八つと茶を盆に乗せる。
「山鳥毛さんに届けてきますっ」
「あれ、ここで食べないの?」
「山鳥毛はきんじなんだぞ!」
「そういやそうっけ」
 五虎退が部屋を出て行くと、おやとすれ違う声がした。この声はと気がついて、謙信と姫鶴がひょっこりと廊下に顔を出すと、五虎退に話しかける小豆がいる。
 言伝を頼まれた五虎退は、分かりましたと、背筋を伸ばして歩いて行った。それを見送る小豆に、二振りが声をかける。
「あつき!」
「ん、あつき。こっちこっち」
「謙信と姫鶴か。そろってかおをださなくても……」
「厨はいいの?」
「まかせてきたんだぞ。はは、そのままだとへやにはいれないぞ?」
「わっ、ほんとうなんだぞ!」
「ちょ、けんけん引っ張らないで」
 三振りでちゃぶ台を囲む。やや待てば、五虎退も戻ってきて、四振りになる。
 いただきますと揃って手を合わせ、挨拶をして、おやつを改めて見た。寒天で作ったというゼリーは弛めで、ふるりと崩れそうだ。中には蜜柑や桃の甘煮が入っているように見える。
「やあらか」
 スプーンで触った瞬間、崩れた欠片に、姫鶴が思わず言う。その声が喜色を帯びていたから、はやくたべておくれと小豆が笑みを浮かべた。
「おいしいんだぞ!」
「それはよかった」
「あ、あの、とっても美味しいですっ」
「よかった。ほら、あせらずたべておくれ」
 短刀達と小豆がきゃらきゃらと話している姿を、姫鶴はじっと見る。それに気がついた小豆が顔を上げた。
「姫鶴?」
 目を丸くした小豆に、ふむと姫鶴はスプーンを持ち直した。
「かあいい」
「ああ、こどもたちはあいらしいね」
 そして頼もしい。そう言う小豆は幸せそうで、姫鶴はやっぱりかあいいやと頬を緩ませた。
 残暑が厳しいと肉の器に支障が出るものだ。だからこそ、この時期に冷たいお八つはよく効く。姫鶴はまだ生ぬるい風を感じながら、謙信と五虎退と小豆を眺めていたのだった。

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