姫鶴+小豆/ブドウ飴


 くつくつと煮る音がする。お菓子作りは魔法みたいですね。五虎退がほうと息を吐く。食べるかい。そう言って旬のブドウで作った飴を差し出すと、五虎退は、わあっと目を輝かせて頬を緩ませた。
「俺の分は?」
「ひゃっ!」
「おや、姫鶴かい? しんぱいしなくとも、ぜんいんぶんあるよ」
「んな事わかってる。で、俺には?」
「ああ、つまみぐいか」
 どうぞとブドウ飴を差し出せば、髪を手で押さえてあんぐりと口を開き、ぱくんと小豆の手から食べた。五虎退は美味しいですよねと笑っていて、小豆はあまえんぼうだなあと苦笑していた。別にいいでしょ。姫鶴はがりがりとブドウ飴を食べて、ん、と満足そうにした。
「うまいよ」
「よかった」
「果汁が多いもんだね」
「なまのぶどうをつかうからね、とうぜんさ」
 そこで五虎退の名を呼ぶ一期の声がした。五虎退はすっかりブドウ飴を食べ終えて、それではと挨拶をしてから、はあいと一期の元に向かった。
 残された小豆と姫鶴のうち、小豆はせっせとブドウ飴を小さなアルミ皿に乗せていく。地味な作業は得意だ、とは遠いお祖父様のお言葉である。小豆はよくその血を継いでいるような気がした。出自も何もかも分からないし、その身すら残っていないのに、小豆は確かに彼が祖父のような気がしていた。
「あつき」
 姫鶴の声がする。凛とした声なのに、どこか柔らかく聞こえるのは、彼が上杉の刀としてあらんといるからだ。
 彼にとっては、小豆は家族なのだ。
「なんだい?」
「あつきも食べればいいのに」
「みんなにくばったら、たべるよ」
「摘み食いはしないワケ?」
「そりゃまあ、みんなにたべてもらいたいからね」
「でも美味しそうだなとか、今ならこれが旬だなとか、考えてすいーつ作るんでしょ?」
「うん、そうだけれど」
「だったらやっぱり、すいーつも小豆に食べてほしいんじゃない?」
 何だそれは。小豆はきょとんとする。姫鶴は大真面目に、きっとそうだと頷いた。
「これだけあるんだし、一つぐらいいいんじゃね」
「ええと……」
「ほら、これいい?」
「うん」
 口を開いてと言われて、そろりと開けば、ブドウ飴を摘んだ姫鶴の指先が小豆の口内に入る。ころんと、舌の上に置かれて、するりと姫鶴の指が口から出た。
 しっかり認識してから、口を閉じて咀嚼する。カリッと飴を噛むと、じゅわりと果汁が溢れた。もごもごと咀嚼し、飲み込む。姫鶴がにやりと笑った。
「ね、うまいでしょ」
 ああ、そうだね。小豆は何とか笑顔を返せたのだった。

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