姫鶴+小豆/姫鶴さんと子ども化バグの小豆さん!2/続けたい


 春の匂いに満ちている。
「わあっあつきかわいい!」
「小豆さん、お体大丈夫ですかっ」
「けんけん、ごこ、どうどう」
「謙信ありがとう。五虎退も、そうしんぱいしなくてだいじょうぶだよ」
 にこにこと笑う小豆は、姫鶴の膝の上から立ち上がった。小さなぬくもりが消えて、姫鶴はやや残念な気持ちになる。
「それよりいくさ、おつかれさま。おふろにはいっておいで」
「うん! 行こう五虎退!」
「は、はいっ。あの、姫鶴さん、小豆さん、そのう」
「何かな?」
「なんだい?」
「お風呂から上がったらまた、来てもいいですか?」
 控えめな五虎退に、勿論だよと小豆が言いかけて、姫鶴を見上げる。そういやここは俺の部屋だった。姫鶴は、勿論またおいでと応えた。

 謙信と五虎退が来る前にと、ちゃぶ台を出して、給湯室で茶の用意をする。湯を沸かしていると、小豆は短刀用の踏み台に乗って、秘蔵のカステラを切り分けていた。
「それ、食べていーの?」
「うん。おやつのたなにあるものは、すきにたべていいのだぞ。これはわたしのとくせいでね」
「ザラメ入ってる?」
「もちろん」
 切り分けたカステラを皿に盛り付ける。姫鶴は茶はもう少しかかるよと、薬缶を眺めながら言った。
「さきにへやにいっていようかな」
「だいじょぶ?」
「だいじょうぶだよ」
「じゃあ、先に行って待ってて」
「うん」
 てってこと小豆が給湯室を出る。姫鶴は独りにさせるのはまずいかなと思いつつ、湯が沸くのを待った。ここでしっかり沸かしておけば、好きなように部屋で茶を飲める。

 部屋に戻ると、謙信と五虎退がやって来ていた。謙信の世話を焼こうとする小豆が、謙信と五虎退に世話されている。どうやら、今は手遊びを教えてもらっているらしい。
「影絵?」
「あ、姫鶴。おちゃありがとう」
「姫鶴だ! 影絵だぞ」
「姫鶴さんありがとうございます。えっと、影絵にも色々あるとお聞きして」
「俺、ほとんど知らないや。見せて」
 そこで、トントンと足音がした。

「小豆が子ども化バグに巻き込まれたと聞いたんだが」
「ああ、山鳥毛。このとおりだぞ」
「見事に小さいな。今は何を?」
「かげえをおしえてもらっていたんだ。姫鶴にひろうするところでね」
「じゃあひとつずつ見せてよ」
「うん」
 狼、狐、蟹に薬缶に白鳥。春の柔らかな光で作られた影絵は朧ろで柔く美しい。どうだいと笑う小豆たちに、姫鶴と山鳥毛は良く出来ていると褒めた。

 匂いがする。春の匂いだ。花が咲いている。桜の花だ。
「で、あつきはいつ元に戻るの?」
「ひとばんぐらいらしいぞ」
「ふうん」
 山鳥毛と謙信と五虎退がじゃれている。姫鶴は仲良しだなあと微笑ましそうだ。小豆もまた、保護者の目で嬉しそうにしていた。
「今のあつきは子どもだよ」
「なかみはかわらないよ?」
「でも、いーの」
 たまには子ども扱いさせてよ。そう姫鶴が笑うと、仕方ないなと小豆は苦笑した。

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