姫鶴+小豆/姫鶴さんと子ども化バグの小豆さん!/続けたい


 優しい匂いがする。

 春だ。朝起きて、嫌に寒いなと思ったらこれである。昨日まで夏じゃなかったか。首を傾げつつ、朝の身支度を整えた。

「あ、」
「南くんじゃん、なにしてんの」
 南泉があのうと視線を逸らす。何事かと見ていると、南泉の後ろからひょこりと顔が覗いた。
「やあ姫鶴さん」
「……山姥切長義? え、磨り上げられたの?」
「違うよ」
 手入れバグさ。そう笑う山姥切長義は短刀ほどの……太鼓鐘程の器になっていた。

 どうやら昨晩、手入れ部屋に入った刀たちが子ども化バグの被害に遭っているらしい。今回は元の記憶があるから、被害はそう大きくないと、長義は教えてくれた。

 しかし、子ども化か。姫鶴は淡々と歩きながら思う。まあ、磨り上げられた訳ではないならいいのか。いいのか? 分からない。
「あ、姫鶴」
 そうたったかと駆け寄ってきた小豆は、謙信より少し大きく、五虎退よりも小さかった。
「ああ、そういえば昨日、手入れ部屋に入ってたか……かあいいね、あつき」
「まさか、そういわれるとはね」
 中身は普段の私だよと苦笑する小豆に、姫鶴は分かってるよと声をかけた。
「あつきはいつも綺麗。でも今はかあいい」
「そうかい?」
「褒めてんだから、素直に受け取って。ほら」
「ん?」
「抱っこ、させて」
「ええ?」
 まあいいか。小豆はそう言って、その細く柔い体を姫鶴に寄せた。

 姫鶴は小豆を抱っこして、進む。どこに行くんだいと問われて、俺の部屋と答える。厨には出禁なのだろうと決めつけると、まあねと肯定された。
「からだのちいささになれなくて……あぶなっかしいとおとうさまが」
「燭台切さん、そゆとこあるよね」
「そうだね。でも、やさしいよ」
「怒らせると怖い」
「まあ、それはだれでも、だぞ?」
 部屋に着くと、小豆を座布団の上に座らせて、姫鶴はふむと考える。
「ちっと待ってて」
「うん?」
 小豆を部屋に残して、姫鶴は付き合いは無いがこういう時に頼りになる気がする刀のもとに向かった。

「毛利藤四郎、いる?」
「あ、姫鶴さんですか。どうされましたか?」
「えっと、子ども用の服を貸してもらえる? たぶんけんけんより大きくてごこより小さい。粟田口ならあるでしょ」
「ふぎゃー! だれですか!!」
「あつき」
「なるほど!」
 では僕の秘蔵のお洋服を出しましょうと、毛利は息巻いていた。いや秘蔵って何。粟田口なら短刀が揃ってるからと聞きに来たのだが、毛利は個人的な衣装を出してきた。

 小豆の元に戻ると、洋服を渡した。和装もいいだろうが、小豆は普段着が洋服だ。こちらの方が馴染むだろうと思っていると、小豆は気が利くねと微笑んだ。
「きがえるよ」
「手伝い、いる?」
「だいじょうぶ、だとおもうぞ」
「ん」
 小豆はするすると戦装束を脱ぐと、用意した洋服を身に纏っていく。白いシャツにグレーのスラックス。白いカーディガン。全体的に白っぽい衣装だが、小豆はほっと息を吐いた。
「やっぱり、あんしんするね」
「戦装束だと気が張るよね。白は嫌じゃない?」
「だいじょうぶだよ」
「良かった」
 頭を撫でると、小豆はふふと笑って姫鶴の手に擦り寄る。短刀は懐刀だから、懐が安心するっていうよね。そう呟きながら抱きしめると、小豆はそうだねと嬉しそうに声を弾ませた。
「けんけんとごこには会った?」
「まだだぞ」
「会いたい?」
「いま、しゅつじんちゅうだぞ」
「ん、そうだっけ?」
「そうだぞ」
「じゃあ帰ったら、上杉の子たちで遊ぼう」
「山鳥毛は?」
「呼ぶよ」
「ふふ、それはよかった」
 すいーつを振る舞えないのが残念だなと小豆は言いつつも、姫鶴の懐が気に入ったらしく、上機嫌であった。

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