アイスクリームメーカー
姫鶴+小豆
!捏造、妄想!


 お歌を歌ってよ。お話を聞かせて。どうして、消えそうなの。
「あつきっ」
「ああ、姫鶴……」
 ごめんね。そう笑う小豆はどこまでも儚くて。俺は悲しくて、初めて涙をこぼした。

「姫鶴っ!」
「わ、けんけん。どおしたの」
 ふっと顔をあげると、謙信がもうと頬を膨らませていた。
「あいすくりーむのやくそくなんだぞ!」
「ああ、買うんだったね」
「んん? あつきがつくってくれたぞ?」
「えっ」
 あの刀、器用すぎない?
 そんな言葉を姫鶴が言いかけると、お八つですよと五虎退が冷たい器を手に声をかけてきた。

 バニラアイスクリームは、老齢の審神者の好物らしい。
「この本丸、アイスクリームメーカーあるんだ……」
「うん!」
「えっと、リクエストしないとバニラですが、頼めば色んな味を作ってくれますっ」
 業務用のメーカーらしいです。そんな五虎退の証言に、まあこの数だったら小さなメーカーじゃ回らないよねと、姫鶴は納得してしまった。

 舌に乗せるととろりと溶けるアイスクリームは、新鮮で絶品だ。うまいな。姫鶴はしみじみと口に運ぶ。謙信と五虎退はパクパクと食べてにこにこと笑っている。かあいいなあ。姫鶴は思わず笑顔になった。
「おや、ここでたべていたのかい?」
「あ、あつき!」
「えっ」
 ここは西向きの縁側で、いまは日が差していないから過ごしやすい。だが、それはそれとしてこの場所はそんなに人通りの多いところではない。なんで忙しいあつきが通るんだ。そう思って見上げると、彼は手に盆を持っていて、その上にはアイスクリームの乗った皿が置かれていた。
「誰の」
 むすっとした声が出ていた。あつきはしんぱいしょうだぞ、なんて笑いながら、主ようだよと言っていた。
「さっきじむがおわったときいてね。きゅうけいするから、あいすくりーむをはこんでくれって」
「ふうん」
 アイスクリームの皿はしっかり冷えているらしい。冷たいそれは、あつきの優しい心遣いとは真反対で、少しだけズルいなと考えた。

 だから。
「あつき」
「ん? どうしたんだい、姫鶴」
 空いている手を伸ばして、あつきの服の裾をぐいと掴む。おっとなんて、体勢を姫鶴のためだけに崩したあつきの、その体に躰を寄せる。
「明日はカスタード味がいい」
 そのまま囁くと、ふふとあつきは笑った。
「まかせておくれ。たまごのあじをいかそうね」
 腕が鳴るよと笑ったあつきの、その姿はやっぱり優しくて、綺麗で。
 あの時の、消えてしまうあつきに感じた恐怖なんて、一つも感じさせてくれなかった。

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