山鳥毛+小豆/レモンのダックワーズ/小豆さんと一文字の美味しい噺の続きのようなもの。


 甘い香りがする。五虎退が、今日のお八つですねと微笑んだ。
「ダックワーズだそうです」
「ダックワーズ?」
「はい。それも、畑で採れたレモンを使うらしくて……」
 去年も作ってもらいました。五虎退はえへへと笑って、手伝ってきますと厨に向かった。
 残された山鳥毛は、そういうものかとやや考えてから、五虎退を追いかけて厨に向かった。

 厨には匂いに釣られてやって来た刀が何口かいた。五虎退はその中でも先陣を切ってテキパキと手伝いをする。頼もしいな。山鳥毛は笑みを浮かべた。
「小豆さん! 主さんが居間に来るって!」
「おや、それはめずらしいね」
「ダックワーズの匂いに釣られたってさ! あれ、山鳥毛さんだ?!」
 こんな所に立ってどうしたんだ。本日の近侍の愛染に言われて、いや何と山鳥毛は笑った。
「少し、匂いに釣られてな」
「あー、やっぱり! 小豆さんのお八つ美味いよなあ!」
「そうだな」
「ふふ、ほめてもおまけしかだせないよ」
「ほんとか?! 主さんさ、蜂蜜も少し掛けたいって!」
「わかったよ」
 蜂蜜を添えたダックワーズの皿を、愛染が運ぶ。居間に審神者が来るなら、多くの刀が屋敷に集まるだろう。小豆が作り、五虎退主導の元、お八つの支度が進む。
 山鳥毛はむこうでまってておくれ。そう小豆に言われて、山鳥毛は片付けは手伝うと宣言してから、居間に向かった。

 居間には矢張り多くの刀が集まっていた。審神者の姿はまだ無い。おや、と声をかけられる。古今伝授の太刀だ。
「こちらにいらしたのですね」
「ああ、小鳥はまだらしいな」
「ええ。それより、いいのですか?」
「何がだ?」
 いえ、その、と古今伝授の太刀は告げた。
「小豆さんが、文を貰っていたように、見えたのですが」
 風流というやつですかね。そう微笑んだ古今伝授の太刀に、山鳥毛はぱちりと赤い目を瞬かせた。

 ダックワーズを食べる。ふわふわと軽い食感と、ふんわりとした甘さ。芳香なレモンの匂いと、酸味が心地良い。
「……で、くりやにきたんだね?」
「ああ。ダックワーズとやらは美味しいな……」
「くらいかおでたべないでおくれ。で、ふみ? うーん、もらったかな」
「覚えがないのか?」
「いや、うーん。まあ、はなしてもいいかな」
 これだよ。小豆が何やら紙切れを差し出す。山鳥毛は見ていいのかと問うたが、小豆はかまわないよと言うだけだった。
「これは、お八つのリクエストか」
「そうだね。ちなみに、おくりぬしは、こじんじょうほうだからいわないよ」
「そうか……恋文を貰っていたのかと」
「ははは、それはないぞ」
「君に思いを寄せる者は多いだろう」
「まあ、かたなだからねえ」
「何かあったら相談してくれ。力になりたい」
「山鳥毛はいろこいにぶきようそうだけれど」
「酷いな」
「たちなんてそんなものさ」
 で、おやつはおいしかったかな。小豆の言葉に、山鳥毛は勿論だと頷いたのだった。

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