姫鶴+小豆/レモンカスタードパイ/小豆さんと一文字の美味しい噺の続きのようなもの。


 与えられた部屋は、東向きの、柔らかな光がほのかに覗く場所だった。
 一人部屋。姫鶴はそっと部屋を見回してから、出て行った。

 厨に行くと、声がする。一口は知ってる。もう一口は、知らない。
「あつき?」
 声をかけると、小豆は振り返り、ふわりと笑う。
「ああ、姫鶴か。いま、おとうさまのしんさくの、ししょくをしててね」
「お父様?」
「うん。燭台切さんのことだね」
 ははと燭台切と小豆は笑う。あっそう。姫鶴は厨に入った。
 燭台切と小豆の手元にはパイがある。薄い黄色のそれに、小豆は言う。
「れもんかすたーどぱい、だよ」
「レモンカスタード……」
「食べるかい? 今切り分けるよ」
「一口でいい」
「ん?」
 燭台切が首を傾げている。小豆はそういうことかと一口分、フォークで切り分けた。
「はい」
「ん」
 ぱくり。姫鶴はパイを食べる。酸味と甘味が口の中に広がる。ふわりと鼻に抜ける豊かな香りに、目を細めた。
「うま」
「そうだね」
「本当? 皆に出せるかな。パイが少し固めかも……」
「ざくざくしてて美味いよ」
「うん。わたしもちょうどいいとおもうよ」
「そう? じゃあ今度のお八つにするね」
 良かったあと胸をなでおろす燭台切に、姫鶴は小豆から二口目を拝借しながら、祖にも色々あるんだなあと思っていた。

 そのまま後片付けの手伝いをすると、燭台切はいたく感動していた。姫鶴としては、美味しいパイのお礼だった。
「姫鶴はこれからようがあるのかな?」
「いや、特には無い。それより、あつきに聞きたくて」
「なにかな?」
 あのさあと、姫鶴は濡れた手を清潔なタオルで拭く。
「俺の部屋、用意したの誰」
「ん? そのことかい?」
 きにいらなかったかな。そう小豆が問うので、逆だよと姫鶴は言った。
「すんごく居心地がいい」
「それはよかったね」
「でさ、こんなこと俺にするの、あつきぐらいでしょ」
「ふふ、さあどうかな?」
「ああ、絶対あつきだ」
「きにいってもらえてよかったのだ」
 のほほんとしている小豆に、全くもうと姫鶴は息を吐いた。なお、燭台切は皆にパイを出すためにあれこれ考えていたので聞いていないようだ。
「なんてお礼すればいいんだよ」
「おれいなんていらないぞ?」
「俺が気になるの。あつきは忙しいのに、こんな手間かけさせちゃってさ」
「てまというほどではないよ?」
「審神者と交渉したりしたくせに」
「ははは、たまたまきんじだっただけさ」
「もう……」
 きにしいだな。小豆が言うので、どっちがだと姫鶴はまたため息を吐いたのだった。

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