小豆+山鳥毛/小豆さんと一文字の美味しい噺4


 固めの寒天。ふっくらとした蜜豆に、甘煮の果物を幾つか。粒餡をのせて、黒蜜を用意すれば完成だ。
「おお、今日はあんみつか」
「やあ、山鳥毛。すこし、てまがかかるから、じゅんばんにまってておくれ」
「手伝うことはあるか?」
「こどもたちがてつだってくれているよ」
「それもそうか」
 そこで謙信が、はこんできたぞとトレーを手に戻ってくる。
「あ、山鳥毛!」
「謙信、手伝いご苦労」
「とうぜんなんだぞ!」
 それでもえへへと頬を緩ませる謙信に、あとからやって来た粟田口の短刀たちが、謙信いいなあと楽しげに話す。だが、小豆がつぎのぶんができたよと声をかけると、自分こそが運ぶのだときゃらきゃら歩いて行った。

 夏の本丸のお八つ時。山鳥毛を探していたらしい南泉が声を上げた。
「お頭!」
「子猫か。席取りありがとう」
「ッス」
 南泉と並んで、あんみつを前にする。日光が遅れてやって来た。遅れるなんてと反省していたが、ここ最近は書類が詰まっていることを山鳥毛は知っていた。怒ることなどない。なお、のんびりと食堂に入った則宗は、小豆と何やら会話してから、可愛がっている加州たちのところに向かって行った。その際、こちらにひらりと手を振るのも忘れないから、ソツのない刀である。
「では食べよう」
 その声かけで、日光と南泉も手を合わせて、挨拶をした。

 冷たいあんみつにまず蜜をかける。黒蜜もまた、小豆の手作りだ。とろりと回しかけて、匙に持ち変える。冷たいそれに心地良さを覚えながら、そっと黒蜜がかかった寒天を掬って口に運ぶ。つるりとしながらもかろりと崩れる寒天は噛んでいて楽しい。粒餡と、水菓子も食べる。甘くて、繊細で、癖になる。
 どれも丁寧に作られていて、性格が出ているなと山鳥毛は嬉しくなった。

 小豆は、再会できるとは思わなかった仲だ。それでいて、曖昧な彼を見て、直ぐに小豆長光だと分かったのも事実。山鳥毛にとって一家とはまた別の、特別な刀である。
 それが、こうしてお菓子作りをしているのだから、本丸とは夢の国だなと思う。刀として戦を本分としているのに、どうにも出会いと再会が楽しくて仕方ない。
「そういえば、明日のお八つは琥珀糖だそうですね」
 日光が言うので、琥珀糖とは、と山鳥毛が瞬きをする。南泉が、そういや干して三日目かにゃと呟いた。
「そろそろ皆に振る舞えるとか」
「そうらしい、にゃ」
「ほう、それは楽しみだな」
 まだ見ぬ菓子に、山鳥毛は心を踊らせたのだった。

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