小豆+南泉/小豆さんと一文字の美味しい噺3


 ゆらゆらり。蜃気楼が見えそうな万屋街にて。南泉と長義がショウウインドウの前で並んで立っていた。
「猫殺しくん、まだ悩んでいるのかい」
「うー」
「手早く選んでしまいなよ。ほらこっちのバニラとかどうだい?」
「……ホントにそれ、オススメ、にゃ?」
「適当に決まってるよね」
「オマエ次の店行ってていいから、ゆっくり選ばせろ、にゃ!」
「はいはい。待つよ」
 ゆっくり選びな。そう言われた南泉はううと唸った。

 夏の本丸は今日も暑い。
 南泉が目当ての刀の非番を狙って長船部屋を訪ねると、小豆が一口でせっせと武具を直していた。彼は南泉に気がつくと、ふっと顔を上げる。
「おや、南泉。どうしたんだい?」
「えっと、その」
「うん?」
「こ、これ。いつもお世話になってるから、にゃ」
 一家の刀が世話になってるから、と。下っ端ではあるが、この本丸では同派の中で一番先輩だ。口には出さないが、裏でこうして動くのは一度限りではない。
 きにしいだな。小豆はくすくす笑った。
「そんなにきにしなくていいのに」
「オレが、気になるんだ、にゃ!」
 そうかな。小豆が困ったように眉を下げる。南泉はまずかったかなと一瞬迷った。だが、もう差し出したのだから仕方ない。黙っていると、小豆が袋を受け取った。
「これは、あいすくりーむかな?」
「抹茶味、にゃ」
「おいしそうだね」
「二つあるから、好きなやつと食べて、にゃ」
「ふむ」
 じゃあと小豆は微笑んだ。
「南泉といっしょにたべたいな」
「……へ?」

 銀色のスプーン、鮮やかな緑色のアイスクリーム。ふわりと香る温かいほうじ茶を淹れてくれた。
「どうぞ」
「お、オレが贈った側なのに、にゃあ」
「どうかしたのかな?」
 きょとんとする小豆に、まあいいけどと南泉は手を合わせた。
 いただきますと挨拶をしてから抹茶味のアイスクリームにスプーンを差し込む。口に運べば冷たく滑らかな舌触りとぶわりと広がる抹茶の風味が心地良い。
「うま……」
「おいしいね」
 微笑む小豆に、南泉はそうだなと頷く。
「夏はあいすくりーむが美味い、にゃ」
「ほんとうにね。つめたいものばかりでは、からだがひえてしまうけれど」
「何事も程々、にゃ」
「そうだね」
 こうして贈ってもらったからには何かお礼をしないとと嬉しがる小豆に、お礼だからいいのにと南泉は目を細めたのだった。

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