盆休み/不動+愛染/森兄弟刀/愛染くんが不動くんを兄のように慕ってます。


 世間ではお盆などなんだのと言われる時期だ。
「不動にぃ!」
 ぱたぱたと動く愛染に、不動は、きみは本当によく働くなあと頬を緩めた。

 不動は、比較的、人に尽くす性質である。修行を経ると、それは顕著となり、せっせと働いた。一方の愛染は賑やかで祭り好きで、静かなところはむず痒くて苦手だと言う。だが、それでいて愛を語り、刀にも人にも優しい。
 その優しさが似てますよね、なんて宗三に言われた。
 また、この本丸では愛染は不動によく懐いた。蛍丸と明石に対して霊力が働かないという、とんでもない体質の審神者により、それを克服するまで愛染には家族となる刀がいなかった。
 そこに他本丸より早く不動が励起したのだから、結果は火を見るより明らかである。
 元々、森家の刀として繋がりが無かったわけではない。ただ、不動も不動とて、他の本丸よりちょっと世話好きで、愛染を放っておけなかったのである。
「あのさあ! 今度万屋街の金物屋通りでいべんとやるんだって! 福引き!」
「へえ、そうなんだ」
 愛染はテキパキと不動の拭いた食器を棚に片付ける。身長の関係で仕舞えない食器は不動が仕舞うので問題はない。
「でさ、不動にぃと行きたいやって」
「明石と蛍丸は?」
「練度上げ! 経験値が貯まりにくいらしくてさ」
「ああ、まだ不具合があるんだ」
「そのうちパッチってやつ充てるってさ!」
 愛染は仕方ないよなと言う。それはそうだが、不安だったりはしないのだろうか。不動には愛染にとっての明石や蛍丸のような刀は居ないが、いつも明るい愛染が不安がるのは心苦しい。それだけ仲が良い自覚はあった。
「で、週末に行けるか?」
「いいよ。予定を開けておくから」
「ありがとな、不動にぃ!」
 ヒマワリのような笑顔に、不動は不安は無さそうだと安心した。

「福引に行くならついでに喫茶店にでも行ってくればいい」
「え、いいの?」
「当たり前だ。お前たちはよく働いているからな」
 主も働きに相応の対価が必要だと言っていた。そして渡された封筒には、金物屋通りの割引券があった。
「これは?」
「少ないが、一先ずの報奨だ。給金は別に振り込んである」
「あ、ありがとう……愛染こういうの好きだから喜ぶよ」
「不動は喜ばんのか」
「いやまあ嬉しいけど、どこで手に入れたの、コレ」
「それなら博多が」
「何したの?!」
「まあ、株の、なんだ、そういうやつだ」
「言いづらいなら無理しなくていいけどさ」
 ありがとうと不動は受け取った。

 週末。部屋で軽装に着替えて、最後に長い髪を結い上げていると、加州と獅子王がにゅっと現れた。
「出掛けるんでしょ?」
「ぴかぴかにするぜ!」
「えっ?」
 そのままハーフアップの編み込みにさせられる。不動は綺麗なんだから、こういうのもいいよねと加州と獅子王はニコニコしていた。この刀たち、話を聞かない。不動はされるがままに遠い目をした。

「あ、不動にぃ!」
「愛染、お待たせ」
「その髪お洒落さんだな!」
 綺麗だとはしゃぐ愛染も軽装で、その髪にはカラフルなピンが止められていた。何だかんだで仲の良い、どこぞの保護者の手だろう。愛染こそ可愛いよと言うと、オレは可愛いとか言われてもなと眉を下げられた。
「じゃあ行こうぜ!」
 ん、と小さなやわい手を差し伸べられて、不動は手を繋いだ。しっかりと握ると、愛染がへへと嬉しそうに笑っている。福引、当たるといいね。そう言うと、当たる気がするなんて元気に言っていた。

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