村雲+獅子王中心/俺の教育係さまっ!4/もう少し続くかも


 とろりとした夢から覚める。五月雨はもう起きていた。いい時間ですよ。そう言われて、テキパキと身支度を整えてから、歌仙寮へと向かう。スタスタと歩いていると、鶯丸と大包平が朝から茶を飲んでいたり、江雪が小さな畑からいくつかの野菜を収穫していたりした。

 二階の角部屋の前に立つ。艷やかな木の建物。磨かれたそこで、息をする。
「獅子王さん」
 おはようございます。そう声をかけると、おはようと返事があった。するりと戸を開くと、すっかり内番着姿で何やら書類仕事をしている獅子王が、振り返っていた。
「ちゃんと来れたな、偉い!」
「う、うん」
「……どうかしたのか?」
 きょとんと首を傾げられる。何でも、村雲は口籠る。獅子王はじいと村雲を見上げる。鋼色の目は金糸のまつ毛に飾られている。そうだ。
「違う……」
「え?」
 夢を思い出した。あれは、村雲の夢だった。村雲が、獅子王を掴んだのだ。

 獅子王は村雲から夢の話を聞き出すと、うんと眉を寄せた。
「何かあったのかも」
「何かって?」
「俺と村雲さんを繋ぐ縁が出来たのかもしれない。一度、主に診てもらおうぜ」
「それはいいけど」
「けど?」
「獅子王さんは黒い服を着てるのに、どうして夢の中では白かったの?」
「あー……」
 獅子王はそれはと曖昧になる。珍しい。村雲がじいと見ると、あんまり記憶にないんだけどと獅子王は前置きした。
「じっちゃんの為の拵えだから、それより前は他の拵だったのかも」
「あ、なるほど」
「ただ、なんで村雲が昔の俺と縁を繋いだんだろう」
 それは分からない。村雲も獅子王も首を傾げたのだった。

 審神者と対面する。審神者は難しい問題が起きていると認識し、暫くは本丸から出ないようにとの返事をした。そして、村雲には、夢は恐らく毎夜進むだろうと口にした。

 毎夜進む夢、とは。村雲は考える。手を繋いだ白い獅子王と、次はどうなるのか。全くわからない。
 獅子王は考えても仕方ないと言って、掃除当番に混じり、掃除の仕方を教えてくれたのだった。なお、本日の掃除当番は御手杵と小夜だった。

 昼間は掃除に明け暮れて、蔵の整理も少し行って、やっと夕餉となる。五月雨と獅子王と村雲の三口で机に着き、食べる。同田貫は出陣らしい。五月雨は短期の遠征だったとか。
「雲さんが、白い夢、ですか」
「そうなんだよ」
「何なんだろうな?」
「私には解りかねますが、雲さんがもし魘されたりしていたら、起こしましょうか」
「そういう時が無いといいけど、もしあったらお願い」
「俺からも頼む!」
「はい。任されました」
 良かったな、村雲。獅子王が笑うと、村雲はうんと頷いたのだった。ただ、何故だか胸がざわついて仕方がなかった。何だか悪いことが起きるような、そんなような気持ちがしたのだ。


 夢を見る。

夢を見ると、真になる。

 まことは夢成りて、

夢ならざる真は誠なりか?

 されど白は遠く。

言葉は意味を為さず、

 それを人はしうちゃくと呼ぶが、

しうちゃくは執着ならざりし。

 言の葉が飛び交う中では、

まことは遠く遠く、

 ほんとうを知らぬ貴方には、

わたくしはみえざらましを。


 白い腕。白い指先。きゅっと絡めると、白い獅子王はふわりと笑った。村雲はその顔に喜びを得て、引き上げる。ざぷんと白い獅子王が村雲の元にやって来る。溶けてしまいそうな彼は口を聞かず、ただその美しいかんばせを村雲に向けていた。
 ああ、綺麗だ。でも、今度はちゃんと獅子王だと分かった。それがとても嬉しくて、村雲はきゅっと握った手を絡め直したのだった。

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