村雲+獅子王中心/俺の教育係さまっ!3/続くかもしれない


 それは唐突である。
「私の師匠です」
「同田貫だ。よろしくな」
「よ、よろしくお願いします……」
 村雲はへたりと頭を下げた。

「あ、同田貫に会ったんだ」
 朝。獅子王が迎えに来たので問いかけると、やっと会えたんだなと嬉しそうにされた。
「同田貫は由来が複雑でさ。一応、誰とも関わりがないと判断されて、五月雨の教育係になれたんだ」
「へえ……」
「同田貫はいいやつだぜ。俺とも仲良くしてくれる。たまに爺さん扱いされるけど!」
「ふうん」
 獅子王はそれよりも、と提案した。
「朝、俺が迎えに来るのは今日までな! 明日からは村雲が俺の部屋に来ること」
「えっ」
「俺の部屋は歌仙寮にある。ちょっと奥まったところだから、朝の散歩ついでに俺の部屋まで来てみるか?」
「お、お願いします」
「ん、宜しい。じゃあ行くか!」
 獅子王に手を差し伸べられて、それに手を重ねて立ち上がる。小さな、細い体。なのにどうしてこんなにも頼りたくなるのだろう。村雲は、不思議だった。

 どうやら、五月雨と村雲の部屋は蜂須賀寮というところらしかった。寮長は蜂須賀である。彼とは初日に挨拶をしたが、寮長だとはあまり意識していなかった。
 歌仙寮は少し離れた場所にあった。長屋のそこに、もの好きな刀が集まっているらしい。
「俺の部屋は二階の一番奥の角部屋な」
「そうなんだ」
「階段はこっち」
 階段を上がって、一番奥まで進む。戸を開くと、きちんと片付いた部屋があった。窓が大きく光がよく取り込まれるそこは、とても明るい。
「で、今まで説明してなかったけど、俺には鵺がいる」
「鵺って、化け物の?!」
「まあな。でも良い鵺だから大丈夫」
 出ておいで。そう獅子王が言うと、にゅっと、押し入れから黒い綿のような生き物が出てくる。鵺、なのか。村雲は首を傾げた。確かに嫌悪感が無くもないが、恐ろしいより、可愛らしい。
「戦場じゃ頼りになるんだぜ! あと夏でもひんやりしてる」
「そうなんだ」
「じゃあ、朝餉に行くか」
 そうして部屋を出ると、おやと声をかけられた。その声に、あっと村雲は驚く。
「三日月?!」
「村雲か。いやはや、ここでも縁があるとはな」
 何だ知り合いか。獅子王が言うと、三日月と村雲は口を揃えて、昔の所蔵元が同じと、言ったのだった。

 昼間は馬小屋の仕事を学んだ。馬は信頼が大切ですからね。宗三が言った。
「きちんと顔を覚えてもらわないと、戦場で言うことを聞いてくれませんよ」
「それは大変だ……」
「じゃ、稲藁運ぶか!」
 寝床になるんだと、獅子王は笑った。

 夕餉の時間に食堂に行くと、五月雨と同田貫、そして骨喰と鯰尾が揃って卓に着いていた。獅子王に先導されて同じ卓に着くと、骨喰と鯰尾は挨拶をしてくれる。村雲は挨拶をした。
「そういや獅子王さん! 新しいゲームを手に入れたよ!」
「お、新作か?」
「……なんじゃとか、なんか……名付けのゲームだとか」
「へえ」
「ゲームって?」
 鯰尾たちがそれはねと教えてくれる。
「俺たちはゲーム同好会なんだ。好きな時にゲーム部屋に入ってゲームするだけなんだけどさ!」
「村雲さんも、どうだ」
「雨さんは?」
「私も一応同好会の一員でしょうか……たまに将棋や花札を借りてます」
「ふうん」
 見てる分には楽しそうだ。村雲がむむむと悩んでいるのを見て、今度ゲーム部屋に遊びに行くかと獅子王が提案してくれたのだった。

 同田貫は寝ずの番があるらしい。五月雨は部屋に返され、村雲も獅子王と分かれて部屋に戻る。
 その道すがら、本丸は広いねと村雲は口にした。
「迷いそう」
「呪文は教えてもらったんですよね?」
「うん。てんとう虫の」
「はい。それがあれば大丈夫ですよ」
「そうかなあ」
 不安だよ。そうへたりと眉を下げた村雲に、五月雨はじきに慣れますと微笑んだのだった。

 夜の口。早めの夕餉だった。部屋に戻ったら風呂の支度をして、風呂に行きましょうと五月雨が言ったので、村雲はこくんと頷いたのだった。

 ふわり、ふわり。夢の中。村雲は漂う。ま白いそこから、覗き込む。金糸のような長い髪を揺らして、白い服を纏う青年がいる。ま白い肌は溶けてしまいそうで、それでいて金糸は指通りが良さそうだ。鋼色の目が伏せられていて、彼はとろとろと蕩けた世界で漂っている。
 村雲は彼の手を掴もうと、手を伸ばす。するり、掴んだ。
 すると、ふわりと金糸のまつ毛が揺れて、鋼色の目が村雲を見上げた。あ、と思う。
 きれい、だ。
「ねえ、きみは……」
 誰?

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