獅子王祭り/五虎退+獅子王/あやしあやかし夏祭り


 ふわり、ふわり。風が吹く。ひゅうどろ、ちゃんちゃら。どこかから祭囃子が流れてきた。
 五虎退はそっと空を見上げた。今日は星月夜、月のない夜に星が爛漫と輝いている。心なしかいつもより明るい星々を眺めていると、ようと声がかかった。五虎退が驚いて振り返るとハハと笑う獅子王が居た。黒っぽい生地に黄色の模様がある浴衣を纏う獅子王に五虎退が似合ってますと声をかけると、獅子王も淡い青の浴衣を着る五虎退だって似合っていると褒めた。
 さあ、行くか。獅子王が手を差し伸べると五虎退は嬉しそうに良い子の返事をしてその手に手を重ねた。ゆっくり、歩くと五虎退の虎と鵺がやってきて二振りの足元をひょこひょこと歩き始めた。

 ぶわり、強い風が舞い上がると本丸から二振りが消えた。ひゅうどろ、少しだけ不気味な生ぬるい風が本丸を駆け抜けていった。

 どんちゃらちゃらら、祭囃子が聞こえてくる。五虎退が目を開けると、先に目を開けていた獅子王がわあと声を上げた。上空には沢山の提灯が並んでいて、その場を照らしている。出店は多く、気配も多かった。しかしその気配には人間なんて一人もいない。奇々怪々な妖たちが祭り屋台を運営し、出店を歩き回っていた。
 よう獅子王元気だったか。今日は五虎退君も一緒かい。タコのような妖が元気な声をかけてきた。獅子王はタコがたこ焼き売ってんのと笑えば、共食いなんざ知ったことじゃないねと妖は笑った。
 五虎退はりんご飴を貰い、食べる。ぱりぱりと食べていると獅子王はわたあめを貰って喜んでいた。ラムネを二本もらって獅子王の元へと五虎退が向えば、獅子王は団子のようなものを持って五虎退を出迎えた。それは何ですかと五虎退がキラキラ輝く団子を見れば、葡萄に飴が塗ってあるんだってさと獅子王は一本を五虎退のラムネと交換した。
 道端に座ってラムネを飲む。しゅわしゅわとした液体を楽しみ、葡萄飴をがぶりと食べる。じゅわっと果汁が溢れ出てきたので五虎退が驚いていると、獅子王もまた驚いて目を輝かせていた。
 腹ごしらえを済ませると、祭囃子の方へ向かおうぜと獅子王が提案した。五虎退はそれに頷き、揃って道を歩き出した。
 途中で出会う妖に挨拶をしながら進めば、そこには大きなやぐらが建てられていて、周りを妖たちが踊っていた。人間の盆踊りを真似たんだ。そう話すのは人参に似た妖で、獅子王はそうなんだと踊りを見た。あれはと五虎退が指をさすのを見れば、獅子王の鵺と五虎退の虎が小さな体で踊っていた。どんちゃんどんちゃん、皆が踊るのを見て五虎退と獅子王もその輪に入った。見よう見まねに踊り、笑う。音楽はどんちゃん騒ぎで祭囃子に似た何か。先祖を迎えぬ、さっぱり筋の通らない盆踊りを五虎退と獅子王はけらけら笑いながら踊り、輪を外れた頃には疲れて座り込んでいた。
 あー楽しかった。二人が笑うと大きな犬がラムネを二本渡してきた。二人は礼を言って受け取るとラムネを飲み干し、そろそろ帰るかと鵺と虎に声をかけた。二振と鵺と五匹の虎で歩いていると、途中で道に迷わぬようにと言われて提灯を渡された。渡してくれた兎の妖に二人は礼を言い、ひょんひょこりと楽しそうに帰り道を歩いたのだった。

 次の日、朝。五虎退が目覚めると兄弟たちは皆が起きていた。急いで起き上がって身支度を整えて廊下に出ると、同じように急いで食堂に向かう獅子王と出会った。おはようと挨拶をしながら小走りで食堂に向かう。
 食堂では皆が食べ始める寸前で、五虎退と獅子王は並んで席に座った。審神者の掛け声で皆が食事の挨拶をすると賑やかな朝食の始まりだった。食べている最中、ふと獅子王が五虎退に囁いた。
「昨日は楽しかったな!」
 にっこりと笑う獅子王に、五虎退は嬉しそうに頷いて、しょっぱい味噌汁を口にしたのだった。

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