さみくも/露天/露の連作
※ネタバレ注意


 今日も曇り空だ。しかし、いつもより風が強い。秋空の中、この乳白色の雲ならば、じきに流れていきますよ。これは、五月雨が密やかに教えてくれたことだった。

 実りの秋。裏山に入り、秋の恵みをいただく。果実の類や魚、時に猪や兎や熊を仕留める。冬に備えるのですよ、五月雨は栗を拾いながら教えてくれた。
「冬になると食料が少なくなるので」
「ふうん」
「全てを購入していたら小判がいくらあっても足りませんからね」
 何せ、本丸に食べ盛りの刀剣男士が何人所属していることか!
 五月雨がくすくすと笑うので、村雲も少しばかり面白かった。
 なお、栗のいがには何度か痛い目に遭わされた。

 本丸屋敷に戻ると、庭では肉の解体が、厨では果物の加工などが、それぞれ食料に似合った保存処理が本丸総出で行われていた。
 栗は洗って食料庫へ。歌仙に指示されて、五月雨と村雲は食料庫に向かった。

 食料庫では御手杵と同田貫がせっせと整理整頓していた。戦好きだからこそ、存外細かいことに気が回る二口は、山盛りの栗を見ると、それは向こうにとすぐに指示してくれた。どうやら食料庫の当番はこの二口が担っているらしい。村雲はそう察した。

 食料庫から出ると、外は秋晴れとなっていた。洗濯日和だね。大和守と和泉守が言う。どうやら加州は山菜の仕分け、堀川は肉の解体に駆り出されているらしい。それじゃあ、長曽祢さんを待たせてるから。大和守と和泉守はすたすたと山盛りの洗濯物を抱えて歩いて行った。

 五月雨と村雲は、果実を酒やジャムや果実水に加工する手伝いをして、過ごした。折角の秋晴れなのに働き通しでごめんねと、夕餉は審神者が自腹を切って蕎麦を取り寄せてくれた。2200年代の技術は凄まじく、出来たての美味しい蕎麦を宅配で届けてもらった。実に美味しかったと村雲はホクホクとした気持ちになった。
 なお、燭台切が、蕎麦を育てるかという顔をしていたので、まず技術を磨こうなと鶴丸に諭されていた。どうやら蕎麦打ちは修行が必要な程に大変らしい。

 深夜。ようやく作業が一段落し、自由行動となる。酒呑みたちは宴会を開くようだが、五月雨と村雲は風呂に入ってすぐに部屋に引っ込んだ。村雲は痛む腹を押さえて布団に入る。慣れない作業でしたからね。五月雨が慣れた様子で隣の布団に入る。
「灯り、消さないの」
「本を読もうかと思いまして」
「わ、雨さんいつの間に図書室から借りてきたの?」
「内緒です。ふふ、いえ、ただ自分で所有しているのがあるだけですよ」
 歌が載ってる本です。洋書のように見えたが、中身は翻訳も入っていた。葡萄色の表紙に、金文字。題名は読めなかった。
「外ツ国の歌が載ってるんです」
「ふうん」
「気になりますか」
「雨さんが気になってるなら」
「少し、読んでみましょうか」
「お願い」
 では、と五月雨が詠う。外ツ国の言葉の後に、翻訳を読んでくれる。至れり尽くせりだな。村雲はぽぽと頬を赤らめた。
「何だかくすぐったいね」
「そうですか」
「雨さんを独り占めしてるみたい」
「実際、そう、ですよ」
「うん」
 では、眠くなるまで詠いましょうか。五月雨の提案に、村雲は雨さんがいいのならと夢心地に彼を見上げた。

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