04.編み込まれた絶望と/鶴獅子


 ぐるぐる回る。かざぐるまのようでいて、どこか果てのない無限のような。
 髪を結ってやろうと鶴丸が言うので、なら頼んだと紐を渡す。すると鶴丸は慣れた手つきでいつもの俺のいささか複雑な髪型をするすると作り始めた。髪を触られながら、こうして結ってもらうのも何回目だろうと考える。もう考えるのが面倒なほど、ほぼ毎日結ってくれている。しかも俺と鶴丸は部屋が違うので、鶴丸は毎朝俺の部屋に来ては髪を結って去って行く。それを寂しいと思うようになったのはもう随分前のことだ。そう、俺はもう随分と長いこと鶴丸を想っていた。
 髪を結ってくれる時間が俺はとても好きで、ずっとふたりきりでいられたらと願ってしまう。それは叶うわけがないのだから、滑稽なことなのだろう。でも優しい手で髪を撫でられれば、愛おしさは膨らむ。この時間だけ、永遠を望み、この時間だけ愛が大きくなるのを許してほしい。この時間だけは好きだと思うことを許してほしい。
 鶴丸はこの髪を結う時間あまり喋らない。俺も鶴丸もお喋りが好きな方だからもし他の人が見たら静かな時間が流れていることに驚くのだろう。俺は鶴丸の指先を感じたいからだけれど、鶴丸はどうしてなのだろうか。聞きたい気もするが、聞きたくない。少しだけ怖いのだ。
「獅子王の髪はくせ毛だな。」
「おう。」
「猫っ毛というのはこういうものか。」
「かもな。」
 鶴丸の声が穏やかに落ち着いていて、とくりと心臓が鼓動した気がした。少しだけ焦って頬が火照って、それが気分がいいものだと思った。今だけは鶴丸を独り占めできているのだと。
「でも獅子王は猫とは違うなあ。」
「そうか?」
「気まぐれじゃないし、家に懐くわけでもない。でも犬みたいに尻尾を振って駆け寄ることはなく、気高い。」
「そういうの分かんねえなあ。ただ、俺はじっちゃんの刀として相応しくありたいだけだぜ。」
「それが、何よりきみを光らせるんだ。」
 ふうんと思っていると後ろで何やら髪をひとふさ持ち上げられた。どうしたのかと思っていると何か、違和感。
「どうしたんだ?」
「いや、何でもないぜ。」
 笑ったような、悲しそうな声に不思議な思いがしたけれど、それ以上にその声も愛おしく思ってしまった。
(今だけは好きだと想わせて。)
 それが叶わないものであり、絶望を背負うだけのことだとしても。

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