髭獅子/花火大会/夜花お疲れ様でした!
※諸説あります。
※個体差だと思ってください。


 淡々と彼が歩いている。夜が来た。ぼうぼうと、暗いけもの達が鳴く夜だ。悪いものかい。問いかけると、彼は、悪くなんかないと笑う。審神者が仕切るこの本丸に、悪いものなんか入り込めやしないのだ、と。

 夜の本丸がにわかに騒がしい。花火が上がるのだと、弟が言っていた。弟は今日は遠征だ。見れないのかなと言えば、明日も花火を上げるらしいぞと言っていた。
 髭切は軽装姿で歩く。各々、気軽な服装で、気の合う仲間達との場所とりや、軽食や酒の用意をしていた。
 鶴丸と大包平は打ち上げ担当らしく、テキパキと何やら支度している。器用な刀達なので、きっと美しい花火が上がることだろう。
「髭切、何してんだ?」
 膝丸はどうしたのかと問いかける獅子王は、軽装姿だった。
 結い上げられたうなじが白く、ぼうと宵闇に光る。ぐるり。何だか喉が乾く。
「弟は遠征だよ」
「ああそっか。じゃあ、明日が楽しみだな」
「君は誰と花火を見るんだい」
「別に誰とも。適当に余ってる所に行こうかなって」
「じゃあ、僕でもいいわけだねえ」
「まあ、そうなるよな」
 苦笑し、獅子王はするりと髭切の手を掴んだ。驚くが、獅子王はわからなかったらしく、良い席があるんだと笑っていた。
 審神者の執務室。普段、近侍しか入れないそこに、審神者はいなかった。
「愛染たちが連れ出しててさ、無人にするわけにはいかないだろ?」
「それはまた、立派な言い分だね」
「そうだろ」
 賑やかな本丸の夜。風はやや吹いている。上空は空気の流れがもつとありそうだ。
「風がある方が、煙が流れて、いい花火か見れるんだぜ」
「へえ、きみは物知りだね」
「そうかもな」
 あ、ほら。ひゅるると花火が打たれた。どんっと大輪の花が咲く。綺麗だ。獅子王が笑うと、彼の鋼色の目が煌めいた。
「ねえ」
「ん?」
 振り向いた獅子王に、軽く口付ける。ポカンとした彼に、またひとつ。ちゅ、ちゅうと吸い付くと、びくんと震えた。あの白いうなじに手を滑らせると、彼の手が止めた。
「髭切?」
「うーん。綺麗なものって食べたくなるね」
「なんかそれ、どっかの誰かも言ってたな……」
「しょうがないよ、僕らは刀なんだから」
「あっそ」
 でも、これ以上はダメだぜ。そう言われて、髭切はこれ以上をするつもりなんてないよと笑った。だってここは、審神者の部屋。そして、髭切にとって、獅子王は、誰が何と言おうと、兄弟なのだから。

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