鶴獅子/昼寝/Twitterアンケートより


 ひとがたる。
 ふわりと花が舞う。誰かの誉桜が通り過ぎた。昼寝をしていた獅子王がむずがり、くあとあくびをする。鶴丸がそっと彼の頭を撫でると、擦り寄ってきた。
「きみは可愛いなあ」
 そんな言葉に、獅子王は眠たげに目を開いて返事をする。
「鶴丸こそ」
 かわいい。そう力を抜いて笑う獅子王に、そうかいと鶴丸はくつくつ笑った。
 午後の微睡みは暖かく、心地良い。冬が過ぎようとしていて、春のような日だった。暦の上は立春が過ぎたので、寒い時期なのだとは思うが、天気とは気まぐれだ。
「明日は雪が降るってさ」
「今日はこんなに暖かいのになあ」
「遠征だろ」
「きみもな」
「遠征も久々だよな」
「きみは一番隊の隊長ばかりやっていたからな」
「心配?」
「なあに、きみなら平気だろう」
「だよな」
 もう少し、昼寝させてくれ。獅子王が上掛けにしていた鶴丸の羽織りをきゅっと持つ。時間ならあるさ。鶴丸は手元の本に視線を戻した。
 とんとん、軽い足音がする。打刀かと間違えそうになるその音は、大包平のものだ。
「鶴丸はここにいたか」
「どうしたんだい」
「いや、獅子王に用があったんだが、鶴丸を探した方が早いと聞いてな」
「獅子王ならここで寝てるが」
「寝ているのか。ならば後にしよう」
「態々探しに来たんだ。急用じゃないのかい?」
「急用といえば急用なんだが、まあ」
「きみにしては歯切れが悪いな」
「三日月が不具合を起こした」
「不具合」
「元々はつい一刻前程に審神者が腹痛で倒れたんだが。それを看病していた近侍の三日月が霊力不具合で縮んだ」
「縮んだか」
「大事をとって一週間の出陣禁止令が政府から出たぞ!」
「声を小さくしてくれ、獅子王が起きる」
「というわけで獅子王に伝えておいてくれ。明日の遠征は獅子王が隊長の予定だったからな!」
「わかった、伝えておこう」
 頼んだ。そう言って大包平が出ていく。
 足音がきっかり離れると、鶴丸が聞こえたかと獅子王に問いかける。勿論と、彼は起きた。
「大包平の声は相変わらずだな」
「本当にな。きみ、もう少し寝ているか」
「いや、隊員予定のやつらに声かけてくる」
 鶴丸、上着ありがとな。獅子王が返した上着を受け取って、鶴丸はまあ焦るなよと苦笑した。
「審神者が倒れた以上、誰に不具合が起きても不思議じゃない」
「だよなあ。気をつけるぜ」
 一先ず粟田口部屋の厚たちに声をかけるか。獅子王がたったと起き上がり、部屋を出ていく。
 それを見送ると、鶴丸は上着をぱたりと振った。ころん、小さなぬいぐるみの大きさをした鵺が転がり落ちる。ははあなるほど。鶴丸は息を吐いた。
「獅子王も不具合が起きてるな?」
 ひゅうろろろ、心無しかいつもより迫力も音量も小さな鳴き声に、鶴丸は鵺を手に獅子王を追いかけたのだった。

- ナノ -