それでも、やだな、痛いのは/鶴獅子
!これは二次創作です!
史実の曖昧なところを都合良く解釈しているので、まだ分からないやつです。
タイトルは水魚様からお借りしました。


 愛を伝える手段には、様々な方法がある。
「刀が最後まで主と共にすることは、刀にとっての最大の愛の伝え方なのかもしれないな」
「それ、鶴丸が言うと、なんか深刻な話じゃん……」
「あーいや、それもそうなんだが、そうではなくな? 愛を伝える機会が増える、という言い方のほうが正しいか」
 鶴丸は水風船を道具で膨らませて、起用に口元を縛る。俺はそれを眺めながら、鵺のブラッシングをしていた。あれ、足にホコリがたくさん付いてる。さてはあまり刀が出入りしない物置に昼寝場所を作っているな。探しておかなければならないが、今はブラッシングが終わってから足を拭かねばならないと決めた。
「加州のように、愛してほしいと言うことも、有用な手段だろう。裏を返せば、愛しているという事だろう?」
「そうかもな」
「亀甲は愛を伝えることに関しては達人級だな」
「あー、なんか、見てると愛情を感じるよな。刀からして見ると、だけど」
「主は吃驚するが、驚きが収まれば、誉なら目一杯頭をなでてやっているし、遠征帰りなら慌てなくていいとか、無事に帰ってきてくれて嬉しいとかも言うな」
「主の愛情の伝え方は人間的だよなあ。俺たちにはちょっと分かんないこともある」
 獅子王はブラッシングの手を止めて、絡まっていた毛を白い指で解き始めた。
 鶴丸は、作った水風船に輪っかをつけて、水を張った小さなビニールプールに浮かべた。針と紙が合体したかのような道具も手作りして、完成だった。
「お、水風船釣りするんだな。皆楽しめそうだな」
「ん、そうかい? 短刀の分しか膨らませてなかったな……」
「そうなのか? 全刀種が楽しめそうだと思うぜ!」
「なんだ、やけに自信がありそうだな。獅子王は水風船釣りを知ってるのか?」
「おう、鵺に案内されてさ、向こう側の祭りに年に一回は顔を出してんだ」
「は?」
 それ平気なのかと、黄色の目を丸くして驚く鶴丸に、平気だと獅子王は言った。
「主から許可も貰ってるぜ」
「ならいいんだが」
「ついでに言うと、鶴丸も行けるからな?」
「なんだって?!」
 そんな面白そうなところにと目を輝かせる鶴丸に、獅子王はハハと笑った。
「もちろん! 元々俺たちは人じゃないし、名前に生き物とかの名前があったら、偽名も簡単に名乗れるからさ」
 今度行こうか?
 獅子王がそう笑うと、鶴丸は勿論と頷いた。

 でもまずは水風船釣りだ。鶴丸の居ない留守を獅子王が引き受けて、鶴丸は本丸放送室に向かう。放送を知らせる音の後に、鶴丸国永の放送が始まった。

『皆、夏の暑さに体の不調を感じたらすぐ薬研先生のところに行こうな! とまあ、こんなに暑いわけだし、鶴丸国永お手製の風船釣りを始めるぜ! 半刻後がら第一部でこっちは短刀限定だ! 第二部は大体の部隊が帰還する夕方だ! 第二部に刀種制限は無いから、皆楽しんでくれ! そして、第二部の予定は急に決めたものでな。暇なやつは助けてくれると嬉しいぜ。じゃあ、短刀の皆、また後でな!』

 元気だな。獅子王はくすりと笑う。楽しそうで何よりだ。
「それにしても、愛かあ……」
 獅子王はゆっくりと足を拭きながら、隙間に鵺を撫でる。鵺の愛は母の愛。刀の愛は共にいることで愛を伝える機会が増える。でも、だとしても。
「それでも、やだよな、痛いのなんてさ」
 獅子王は鵺の足を拭き終えて、ゆっくりと周りを見渡した。今日の月が、妙に気になった。

- ナノ -