膝→←獅子/嘘をつかないと前に進めなかったのに、嘘をついたから過去に捕われる
タイトルはシングルリアリスト様からお借りしました



 隣立つために、俺は何度も嘘を吐く。
 今日はたまたま同じ部隊だとか、たまたま隣に座ったのだとか。誰それにおつかいを頼まれたのだとか、主に呼ばれた髭切を探すのに手を貸してくれないかとか。
 俺の嘘は小さなものから少しばかり大きなものまで様々で、俺の軽い体はその嘘の積み重ねに絡め取られて動けなくなる。
(本当は嘘なんて一つも吐きたくないんだ)
 嘘の糸で頬に出来たミミズ腫れを気にするように、俺は目を閉じる。でも、そうでもしなくちゃ俺は膝丸の隣に立てなくて、俺は嘘に嘘を重ねて自分を傷付けていくしかないのだ。

「苦しいなあ」
 コタツを挟んで向かい合う同じ第一部隊の蛍丸にぼやけば、そうなのと返される。
「やめとけばいいじゃん」
「それが出来たら苦労しねえって」
 恋って変なの、蛍丸はそう言っておやつの豆大福にかぶりついた。いいもんじゃねえよ、俺もまた豆大福を食べた。柔らかな餅と甘い餡、少しだけしょっぱい豆が絶妙な塩梅に出来上がっていた。流石は歌仙だと思って食べていると、それさあと蛍丸は豆大福を食べながら言った。
「獅子王が食べてるの、膝丸が手伝った大福なんだよ」
「……ッ?!」
 思わずむせていると、蛍丸は最初から言えばいいんだよと大福を飲み込んだ。
「好きだって言ってくればいいのに」
「無茶言うなって」
 隣に立つ為に、今の良好な関係になる為に、俺がどれだけ嘘を吐いてきたのか知らないからそんな風に言えるんだと文句を言えば、あっそうと蛍丸は興味無さそうに二つ目の豆大福に手を伸ばした。
「あの刀、鈍くないし、気がついてると思うよ」
「だとしたら尚更言えねえ」
 でも、と考える。もし、最初に好きだと伝えられていたら。そうだとしたら俺は膝丸とどんな関係を築いていたのだろう。手を繋げただろうか、口付けできたのだろうか、隣に当たり前のように立てただろうか。
(ああそんなの無理だ)
 膝丸の隣には髭切がいて、完成された兄弟で。もしくは今剣や岩融が笑っていて。俺なんかが入り込む隙はない。何より、俺みたい嘘吐きは清廉な膝丸の隣なんて似合わない。
「諦めればいいんだけどさ」
 諦めて、離れれば、何かが終わるんだろう。気持ちに振り回されて、嘘を吐くことも無くなるのだろう。膝丸と出会う前の、じっちゃんだけが拠り所の俺に戻るのだろう。そうぼやけば蛍丸は、意気地無しだねとふっとやわらかく笑った。

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