髭獅子/貴方と私で半分こ
診断からお題をお借りしました。
作業用BGM→ninelie (SawanoHiroyuki[nZk]:Aimer)


 時空の狭間、不完全な戦場が発見された。歴史修正主義者、時間遡行軍が現れる予兆があるというその場所に、偵察へと向かわされたのは俺こと獅子王と髭切だった。
 本丸の中でも仲良しの二人と知られ、なんだかんだで弟公認の仲になった俺達に、審神者はあまり危険ではないはずだからゆっくりしておいでと俺達を見送ってくれた。

 かくして、来たのは平成の世。錆びた鉄の香りがする、寂れた港町だった。
 かつては港町として賑わったのだろう。安易に想像できる町並みと、シャッターの閉まった家々、人の姿は見えず、廃村にも見えた。
「ここに時間遡行軍が現れるとしたら何が目的なんだろうねえ」
「わかんねーけど」
「けど?」
 鋭く言葉を拾った髭切に、流石だなと俺は苦笑した。どうにも、俺は髭切という刀に隠し事が出来ないようだ。
「もしかしたら時間遡行軍の拠点の一つか、もしくは、もう時間遡行軍が歴史を変えてしまった場所なのか」
 そう考えられないかと言えば、そうかもしれないねと髭切は頷いた。
「拠点だとしたらすぐに帰らないといけないねえ」
「でも静かすぎるんだよな」
「そう、それに、審神者が言ってただろう?」
「ああ、あんまり危険ではないって?」
 そうそうと髭切は海に近づきながら言った。朽ちたコンクリートがぱらりと落ちる。
「拠点なら、危険度が高いと、あの審神者なら分かる。それだけの力を持った審神者だからね、だから、ここは獅子王の言った、もう時間遡行軍に歴史を変えられた町なのかもねえ」
「そうだな」
 あーあ、間に合わなかったんだね。髭切はそう言ってくるりと振り返る。青空と、青黒い海と、白い洋装の刀。綺麗な夏の絵だと思った。
「せっかくだから観光していこうよ」
「観光するモンなんてあるか?」
「廃墟を見て回るのも、また楽しいかもよ」
「危ない事はしないからな!」
 分かってるってと髭切は笑い、そうだと内ポケットから包みを取り出した。その包みを丁寧に開くと、それは一つのお団子だった。よく潰れなかったなと思いながら見ていると、小豆くんの特別製だよと髭切は笑った。
「半分こして、腹ごしらえをしようよ」
「俺たちに食事は必須じゃないし……」
「でも食べると元気が出るよね?」
 はいあーんと、髭切が俺の口に団子を近付ける。仕方なく口を開いて半分食べると、残りの半分をぱくりと髭切が食べた。二人して咀嚼し、飲み込む。柔らかな餅の中には粒あんが包まれていて、とても美味しい。自然と桜がひらりと前ば、ははと髭切が笑った。
「ほら、元気が出ただろう?」
「うん、そーだな」
 じゃあ行こうか、と髭切が俺の手を取る。俺はその手に導かれるまま、廃村と化した港町を探索し始めたのだった。

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