明日が来たらきっと/鶴獅子
診断からお題をお借りしました。
!死ネタを含みます!


 明日が来たらきっと、世界が終わってしまう。
 何をトンチンカンな事をと笑えば、獅子王は嘘じゃないぜとクスクス笑った。なるほど、それを前提に話せということか。
「なら、獅子王は今何がしたい?」
「え、今?」
 そう、今だ。そう伝えれば、獅子王は考えてもいなかったと首を捻った。
「いつも通りの日を送れればいい。そう思ってたから……」
「なんだ、つまらんな」
「つまんなくてもいいんだよ」
 ほらと獅子王が手を差し出す。俺はすぐにその意図を理解して、彼の手を取った。細くて平べったい、だけど俺よりも少しだけ丸みを帯びた、少年の名残りがある青年の手。
 そんな手をぎゅっと握りしめて、立ち上がる。小さな手だと思った。何を思って、獅子王は明日世界が終わると考えたのか、俺にはさっぱりわからないが、もし、もしかしたら。一つだけ思い当たることがある。
「鵺が死んだんだ」
 ああ、つまり、そういうことなのだ。
「消えちゃってさ。ああ、俺も消えるんだなって」
 現在に至るまで大切に保管されてきた獅子王。だが信仰は人が科学を信ずるあまりに落ちていく。その前触れとして、獅子王の鵺が消えたのなら。
「俺が刀剣男士として戦えるのはさ、じっちゃんとの想い出話だけなんだ」
 伝説で形作られたとも言える獅子王はその魂が不安定となり、刀剣男士からただの刀へ、名刀へと戻っていく。
「残された日を、目一杯普通に、人間みたいに過ごしてやろうって思ったんだ!」
 それだけと笑った獅子王に、俺はそうかと彼の手を握る手を強めた。痛いと言われたから、緩めた。
「人間みたいに、じっちゃんが過ごした日々みたいな、そんな日々を過ごしたいんだ」
 朝餉を食べて、鍛錬をして、書類仕事をして、夕餉を食べて、それから、それから、嗚呼、じっちゃんとやらはどう過ごしていたのだろう。
「だからさ、鶴丸も普通にしててくれよ」
 この話は主以外には秘密なんだからなと、にっと笑った獅子王に、俺はそうかとしか言えなかった。だってそれは、何でもない、告白じゃあないか。
「最後の日ぐらいは恋人になるか」
 ずっと曖昧だった関係を、言えなかった情けない躊躇を、全て捨ててそう伝えれば、獅子王はわはっと大きく笑った。
「知ってた!」
 俺もそのつもりだったんだぜといわれたら、俺はもうほろりと涙が溢れてし仕方がなかった。

 そうして明日が来たらきっと世界が終わってしまうそんな日に、俺は獅子王と二人でいつも通りに茶を啜り、主の部屋に何か仕事はないかと尋ねに行ったのだった。

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