ちいさな手のひら/髭獅子/掴めるもの、取りこぼすもの、掴めないもの
診断のお題をお借りしました
この本丸の獅子王は早くに顕現したそうだ。最も、最近来たばかりの僕は話に聞いただけだけれど。
そんな獅子王は、僕の弟がまだ顕現していないからか、よく僕の世話をしてくれる。否、世話ではなく、気をかけてくれる。何か必要になると一言声をかけてくれるし、一人でいるといつの間にか隣で鵺と日向ぼっこしている。
一度、僕ばかりを構ってもいいのかいと聞いたことがあるけれど、獅子王は少し悩んでから、髭切の傍は安心するんだと照れたように笑っていた。その笑顔に僕は、そうかなと言って彼の頭を撫でてあげることしかできなかった。
そうこうしていると、僕以外と一緒にいる獅子王もよく見かけるようになった。多分、日常生活に余裕ができたからだろう。そう思いながら観察していると、僕は、獅子王が様々な刀に気をかけていることに気がついた。鵺を放し飼いにし、自分は人々の疑問不満を聞いて回り、解決していく。解決出来ないことは、共に考えている。
そうして、そうして、僕は気がついた。彼は本当は昼寝をすることもできないぐらいに走り回っているのだ、と。そして同時に、彼には気を許せる仲間が居ないのだ、と。
彼の元の主については少し思うところがあるけれど、刀の彼にはまた少し違う感情を感じるものがある。
だから僕はいつものようにいつも間にか隣で鵺と日向ぼっこしていた獅子王の手を取って、ゆっくりと撫でた。
「よく頑張ったね」
それは僕よりもずっと小さな手のひらだった。
獅子王はそんな小さな手のひらで、沢山のものを背負っている。それも自ら進んでだ。それを褒めずして、僕は源氏の刀でいられない。まあ、彼の元の主は、色々あったみたいだけど。
「俺、頑張ってるかな」
じっちゃんの刀として、頑張れてるかな。そう言って、獅子王はその大きな目から涙をこぼした。小さな手のひら、きっと取りこぼすものが多いこと、手に取りきれないものがあることを、僕より先に人の形をとっていた彼はよく知っているのだろう。
だから、ここでは後輩である僕は言うのだ。
「よく頑張ったね」
そのまま手を引っ張ることで体を引き寄せて、抱きしめ、背中をぽんぽんと叩けば獅子王はやや間をおいてから、嗚咽を漏らして泣き始めた。
刀の精神年齢は見た目に左右されるらしい。まだ元服したばかりのような少年の姿をした獅子王ならば、こうして泣くのも、何も不思議ではない。だから僕は何にも疑問なんて抱かずに、頑張っている彼の背中を撫で続けたのだった。