うぐしし/桜の下できみは笑う/大包平実装による、同室とか恋人とかの話


 桜並木の下、俺の名を呼びながら獅子王が細い腕を振る。

 政府が大包平の付喪神に顕現していただくことに成功しました。審神者はそう言い、俺たちは大包平を本丸に迎えるべく、行動した。
 そして、詳しくは割愛するとして、ようやく大包平がこの本丸にやって来たのだった。

 鶯丸さんは大包平さんと同室が良いでしょうか。そんな相談を審神者にされ、俺は少しばかり考えた。大包平と同室なのは兄弟のようなものとしてとても自然なことだろう。しかし、今の俺には同室の刀がいる。
「大包平が来たんだろ?」
 冬の景観、寒い二人部屋の中、じゃあ俺は離れ行きかと少し落ち込んだ様子の獅子王に、俺は頭を横に振った。
「その話は断った。というより、断られたな」
「え、何で」
 目を丸くする獅子王は心の底から驚いているようで、俺は笑みを浮かべた。
「大包平と獅子王と俺、三人部屋だったら良いと言ったら審神者に妙な顔をされた」
 そのまま、とりあえずは今のままでという話にまとまったと伝えれば、獅子王は頬を染めて、長い溜息を吐いてしまった。
「鶯さん、三人部屋の少なさを分かってただろ」
「話が通るなら四人部屋を使えるかと思ったんだが」
「あ、使ってない四人部屋があるもんな」
 いやそうじゃないと獅子王は頭を振った。
「とりあえず今はこのままなんだな?」
「そうなるな」
 分かったと獅子王は頷き、うーっと伸びをしてからがばりと立ち上がった。
「じゃあ俺、茶の用意してくるよ」
「そうか。なら大包平を紹介しよう」
「途中で見かけたら茶に誘ってくる」
 ところでどんな見た目なんだと言われて、俺はそうかと考えた。
「昨日まで見かけたなかった姿だ」
「そりゃそうだな」
 頷いた獅子王は、行ってくると部屋から出て行った。だから俺はその間に少しばかり部屋を片付けるかと、机の上にある書物を図書室や持ち主の元へ返しに向かったのだった。

 結局、大包平は見かけなかったらしい。というのも、早速出陣したのだとか。
「主曰く、元気が有り余ってそうだからだってさ」
「そうか」
 顕現して数刻で出陣とは、怪我をして帰ってくるなと分かった。そういえば獅子王が部屋から出て行った頃に門が開く音がしていた。それに、審神者のことだから怪我をしても大事になる前に帰還させるだろう。その点は安心できた。

 そうして二人で茶を飲んでいると、ふわと外が明るくなり、ぱっと空気が暖かくなる。そっと外を見れば、さっきまでの雪景色は一変、桜が咲き誇る春の景観となっていた。
「あ、そっか。新しい刀が来たから宴会するのか!」
 獅子王がそう言って納得するのを聞いて、恒例だったなと思い出す。そして、そろそろ暦の季節が春になるから、景観をガラリと変えても近侍の歌仙は怒らないだろうとも思った。
 なあ鶯さん、と獅子王が楽しそうな声で言った。
「ちょっと散歩しようぜ」
 ゆっくり歩きながら花見をしたいと言われ、俺は頷いた。
「なら水筒を貰ってくるか」
「そうだな」
 厨に行こうぜと獅子王が俺の手を引く。待ちきれない様子に、ははと笑った。
「急がなくても、大包平が居たって二人きりの時間は作るからな」
「わ、わかってるよ」
 カッと顔を赤くした獅子王の、その頭をそっと撫でる。そうすると、恥ずかしそうに、だけど少しばかり嬉しそうに手へと擦り寄る彼は、獅子というより猫のようだと改めて思った。

 そうして桜並木の下、水筒を手に獅子王が手を振る。鶯さん、こっちこっち。近寄れば、低い位置に咲いた桜が一輪。
「綺麗だな」
 そう言えば、そうだなと獅子王は愛おしそうに桜を愛でる。その目がどうにも愛おしくて、俺はそっと彼の名を呼んだ。振り向いた刃色の目は、桜の色に染まっていた。
「今夜は花見酒をしよう」
 宴を抜け出すのは大変だろうがなと笑えば、獅子王は頬を仄かに染めて、夜遅くなら抜け出せるかもなと囁いたのだった。

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