鶴獅子/あなたの傷痕/40000hitありがとうございました!


 傷痕なんて、手入れすれば全て治ってしまうのに。鶴丸はいつまでも背中の痛みを覚えているらしい。

 それは俺の初陣、鶴丸が隊長を務めた日だった。俺の練度にしては少し強い戦場で、俺自身も気合が入りすぎていたのだろう。俺は敵の大太刀から重傷となる怪我を食らわされた。そしてそれを間近で見た鶴丸はそのことに酷く動揺して、正に鬼神のように戦場を暴れた。腕が切り落とされても、背中が裂かれたのも気にせずに、ただただ俺の前で暴れ狂った。
 帰ってきた時、俺よりよっぽど怪我の酷かった鶴丸と、一緒に手入れ部屋に入った。怪我が熱を持ち、意識が朦朧とする中で、鶴丸は何故か延々と俺への恋慕を語り続けていた。俺は思考が霞む熱の中で鶴丸の手を取り、その告白を受け入れた。どうして受け入れようと思ったのか、分からない。けれど、俺はその事を後悔していない。その瞬間から、俺と鶴丸は恋仲となった。

 背中が痛むらしい鶴丸は、起き上がる時に少しだけ動作が鈍る。戦場ではそんな風にならないから、きっと本丸の中でだけなのだろう。そう言った時、近くにいた平野は違いますよと言っていたが。そう、それは俺の前でだけだろうと。
 結局、鶴丸は本丸の中で安心できる場所があまり無いらしい。本丸のどこもかしこでもどうやって人を驚かせるかと考えを巡らせる彼らしい事ではあるが。そう、俺は安全だから、安心できる場所だから、恋仲だから。鶴丸は俺の前でだけ痛みを思い出す。その事を、俺は悲しく思った。

 独占欲が刺激されたりはしないのか。三日月にそう言われたこともある。確かに俺の前でだけ、というのは独占欲が掻き立てられるものなのだろうが、痛みとなれば話は別だ。痛みなんて無い方がずっといい。そう言うと鶯丸は、それはどうだろうなといつもの読めない笑みを浮かべていたのだけれど。

 痛み、とは。人が身を守る為に感じるものだと俺は思っている。そうだというのなら、俺の前で痛みを感じるというのは、俺が危害を与えているようではないか。俺から身を守る為に感じているのなら、そんなに悲しいことはない。
「それは違うぜ」
 とある晩、鶴丸は囁いた。曰く、この痛みは俺にとって何より大切なものなのだ、と。それはどういうことだと聞けば、それはなと内緒話をするようにさらに声が小さくなった。
「俺が君に告白できたのは、この怪我のおかげだろう」
 だから何より大切な、今を作る怪我なのだ、と。そう言って笑った鶴丸に、俺は熱くなる顔を手で覆って、とんだロマンチストだと言い放ったのだった。

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