膝獅子/シャッターチャンス/家族写真とぼくらの夏/シリアスです/30000hitありがとうございました!



 夏、蝉の声がする快晴の日。俺たちは日差しを避けるように書庫の奥で過ごしていた。
 審神者である主が温度と湿度の調整をしているこの部屋はとても静かで心地良い。窓が無いから少し窮屈だが、その分照明に気が使われていて俺は好きな場所だった。膝丸は読書スペースに座って本をめくっていて、俺も何か読もうかと膝の上の画集を持って立ち上がった。
 この書庫には古いものから新しいものまで、まるでどんな本でもあるかのように膨大な本が保管されている。俺は画集を棚に戻して指先を本に向けながら何か面白そうなものが無いかと探す。そして、ふと見つけたのはえんじ色の表紙をしたアルバムだった。こんなところにあるものじゃ無いだろうと手に取れば、どうやら主の家族アルバムらしかった。それこそ、本丸の書庫に似合わないものだ。
 立ったまま、アルバムを開く。最初の頁には日付が二つ。この期間の写真が収められているという表記だった。一枚、まためくる。すると楽しそうな笑みを浮かべた家族写真がそこにはあった。色褪せた写真、きっと写真の知識のある人が撮ったのだろう。この家族写真はとても写りが良い。真ん中、中央の人物に見覚えがあり、この人がきっと主だろう。優しい笑みを浮かべていた。
 その写真を見つめていると、どうしたと声がかけられて、頬を大きな手が撫でた。
「なぜ泣いている? 」
 言われて初めて涙をこぼしていることに気がつく。慌ててアルバムを閉じて目を擦ると、擦るなと膝丸が俺の手を止めた。アルバムを棚に戻した膝丸が、それでなぜ泣いていたのかと改めて問いかけてきた。
「わかんない」
 さっぱり分からないのだと頭を振れば、膝丸は黙って俺を抱きしめた。俺より広い胸に抱かれながら、何とかその背に腕を回す。膝丸は俺の頭を撫で、うなじを辿り、背中をゆっくりと叩いた。それが何でかまた涙を溢れさせて、俺はぽろぽろと泣いた。
 ひとしきり泣いて落ち着くと、俺はそうかと口を開く。
「ひざまる」
 何だ、と膝丸がぶっきらぼうに言う。でもそこに優しい響きがあることを俺はよく知っていた。
「ずっと、一緒でいてくれるか? 」
 俺が震える喉で言うと、彼は少し間を置いてから俺を抱きしめる力を強めた。
「ああ、ずっと一緒に居てみせよう」
 その言葉に、俺はへらりと笑う。そっか、それなら安心だ、と。膝丸の力強い抱擁の中、俺は理解したことを小さな声で彼へと告げた。
「愛情って、さみしいんだな」
 だから、だからこんなにも涙が出るんだとまた滲み始めた視界で膝丸を見上げた。彼はぎゅっと口を結んで、とても苦しそうに、それだけじゃ無いと言った。
「幸せだってあるだろう」
 辛いなら、さみしいのなら、涙が出るのなら。互いを埋め合えばいいと彼は囁くように告げた。

 夏、外では蝉が鳴いている。書庫の隅は外界と遮断されていて、それはまるであの家族写真のように、俺たちもまた切り取られた幸福の中で生きているかの様だった。

- ナノ -