燭→獅子/おやすみの中で/短いです


 手を、握られた気がした。
 ふと、意識が浮上した。節くれ立った、滑らかな手。ごつごつとした男の手が俺の手を撫でて、ぎゅっと握った。その行動に俺はなぜかひどく安心して、また意識を沈ませたのだった。
 目を覚ます。ぱち、ぱちと瞬き。後、上体を上げる。ほんのり冷たい風にぶるりと震えて、俺は夏の夜を歩き始めた。
 昼寝をしたと思ったらもうこんな時間になっていた。広間に行ってみるとそこには誰も居らず、夕餉も片付けられていた。腹が減ったなと厨に向かうと、刀剣男士の気配と電気の明るさがあったので、誰かに夕餉を頼めるかもしれないと俺は歩みを進めた。だって俺は正直料理が得意ではないのだ。

 厨の中に入ると、やあと刀剣男士が振り返った。
「燭台切、何してんだ? 」
「後片付けだよ」
 それと、食事を逃した誰かさんにご飯をあげようと思ってね、と彼は笑った。俺はありがとうと笑った。
 言われるがままに机に着くと燭台切が食事を並べてくれた。ワカメが入った温かな味噌汁とご飯、味の染みた魚の煮付けに真っ白な冷奴。美味しそうな夕餉に、いただきますと挨拶をしてから箸を握った。
 少しずつ、なるべくがっつかないように食べていると、美味しそうに食べるねと燭台切が笑った。腹減ってたからと口の中の食べ物を飲み込んでから言うと、そっかと彼は微笑んだ。その金色の目が柔らかく溶けていくように見えて、俺は首を傾げた。
「ご飯のおかわりは必要かな? 」
 そう言われて、俺は頷いてから空になった茶碗を差し出したのだった。そして茶碗に添えられる手に、既視感。

 食べ終わって、ごちそうさまと挨拶をする。燭台切が、はいごちそうさまと言って節くれ立ったその手で食器を片付けようとするので、俺も片付けを手伝うと席を立った。
 食器洗い用の洗剤でわしゃわしゃと洗って行く。一人分なんてあっという間だ。すぐに水気を拭き取っていた燭台切が、そうだと口を開いた。
「一緒にお風呂入る? 」
「ん? 燭台切もまだなのか? 」
 まあね、と食器拭き用の手ぬぐいを持って言うから、それなら一緒に入るかと俺は手についた泡を水で流した。食器洗いはお終いだ。

 風呂入る用意を持って風呂前で待ち合わせるように約束し、ぱたぱたと厨を出た。だが、そういえばと俺は思い立って一度厨へと戻る。なあ、と燭台切に声をかけた。
「俺の手、握ったりしたか? 」
 ゆっくりと瞬きをする燭台切に、気のせいだったかなと俺は首を傾げて、再び部屋へと向かったのだった。

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