いちしし/夢じゃないってキスして/アイス、夏休み、現パロ(高校生)
獅子王→3年
一期一振→2年
細かい設定は特にありません。


 がりっ。氷菓子を囓った。
 夏休み、弟たちと共に祖母の家へと帰ってきていた一期一振はこんにちはと元気よく挨拶をして祖母に会いに来た人物に目を丸くした。
「獅子王先輩?! 」
「えっ、あれ。一期じゃん」
 おばさんのお孫さんなのと獅子王先輩が祖母に質問して、祖母が楽しそうに肯定するのを見てる間、私はぽかんとしてしまっていた。
 そして冒頭に戻る。獅子王先輩が持ってきたのは棒状でかき氷が入ったアイスで、表示には氷菓子とあるファミリーパックのものだった。孫が沢山いるって聞いたからと獅子王先輩はアイスを噛りながら笑った。私はそうですねと苦笑を返し、大人しくアイスを食べる弟たちを見た。

 獅子王先輩は祖父の家に帰ってきているらしい。元々、高校の寮に入ってる先輩は身内はその祖父の方だけらしい。だから私たちとは違い、この田舎には赤ん坊の頃から住んでいた場所なのだとか。今まで何度か帰ってるのに会わなかったのは、先輩なりに私たちの祖母の家族水入らずの時間を邪魔しないようにしていたからだとか。でも実は五虎退とは何度か会った事があるらしく、二人が笑って挨拶していたりしていた。

 アイスを食べ終えると棒をゴミ箱に入れて、よしっと獅子王先輩は立ち上がった。
「俺帰るよ。おばさんまたなー! 」
 ひらひらと振る手に、私はあのと声をかけた。不思議そうに私を見た先輩に、高鳴る心臓を押さえ込んで、できればと声をかけた。
「宿題、教えてほしいところがあるんです」
 獅子王先輩は面食らった顔をしてから、それなら1時にそこのお地蔵さんで待ち合わせようと提案してくれた。

 午後1時、お地蔵さんの前。じんじんと暑く、ミンミンと蝉がうるさい中。待っているとすぐに獅子王先輩が現れた。
 行こうぜ、腕を引っ張られて連れて行かれたのは一軒の家で、どうやら先輩の実家らしかった。祖父らしいおじいさんに挨拶をして、部屋に通される。窓が開け放たれ、風が吹く部屋で待っていると冷えた麦茶を持って先輩が戻ってきた。
 座りなと言われて机の前に座り、先輩が勉強道具を出すのを見て私もプリントなどを出す。
「分かんないのどこ? 」
「あ、えっと、ここです」
 事前に付箋しておいたページを開けば、ああこれねと先輩はルーズリーフを出して説明を始めてくれた。
 獅子王先輩はちょっと不真面目な見た目をしているが、成績優秀で優しい先輩だ。不真面目な見た目の原因である金色の髪は地毛だというから、とても残念だ。しかしそれは指導熱心な先生たちや噂の標的になってしまうということだけで、私はその髪が気に入っていた。太陽のような輝きの髪と月の光のような灰色の目は、私にとって何よりのお気に入りなのだ。
 わかったかと先輩が顔を上げる。私は頷き、問題を解く。説明のおかげでさらりと解けた私に、先輩は良くできたと頭をわしゃわしゃ撫でてくれた。それが心地よくて目を細めてしまう。

 先輩とは生徒会で出会った仲だ。私は生徒会の書記として。先輩は会長の友達で、よく生徒会のお手伝いをしてくれていた。実は何度か会長たちが生徒会に入るように打診していたが、先輩はバイトがあるからと毎回断っていた。それがとても惜しかったことを今でも覚えている。

「先輩は、あの、受験はどうですか」
「受験? それなら大丈夫」
 お前の勉強を見るぐらいできるよと笑った先輩に、そうですかと安堵する。変な見栄や嘘は吐かない人だから、安心できた。
 それから幾つかの公式を解説してもらった時、そういや水羊羹があるやと先輩は席を立った。戻ってくるまでに解いておけよと笑った先輩に、はいと返事した。

 先輩が居なくなった部屋は静かだった。物が少ないこの部屋は客間の一つだろうか。生活感のあるものが一つもない此処は不思議な心地がした。まるで全てが夢の中かのように思えたのだ。
 だからだろう、お菓子だぜと戻ってきた先輩がとても儚く見えて、私は彼を引き止めたくてぽろりと声を出していた。
「すきです」
 先輩が目を見開いて、口を半開きにして、呆然としていた。私は立ち上がり、そんな先輩から皿を二枚受け取ると、もう一度、好きですと告げた。

 そうして徐々に赤くなる先輩に、ああ夢だろうかとまた不安になって、私はそっと彼へと手を伸ばしたのだった。

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