優しい貴方へ/うぐしし/手紙のはなし
タイトルは診断 書くものに悩む貴方へ 様からお借りしました



 拝啓、鶯丸様。
 優しい匂いがする昼間。まろやかな風はまるで絹の布のように俺を包み込んでくれた。
 目が覚めたら畳の上、うとうとしていたら寝こけてしまったらしい。柔らかな風を感じて外を見れば、穏やかな太陽光がたっぷり降り注ぐ庭が見えた。晩春なのか初夏なのか、そんな曖昧な季節を感じて俺はまたとろとろと眠くなる。春眠暁を覚えずとか、ちょっと違うけど。
 でもそういえばと用事を思い出す。机の上には何枚かの折り紙。俺はそっと机の前に座ってシャープペンシルを手にした。
 薄い折り紙の裏に文字を書く。優しいあの人に、優しい想いを込めて綴った。慕っています、愛しています、貴方のこんなところが好き。まるで恋する乙女だなんてからかわれた事があるけれど、止められなかった。

 折り紙の手紙は、俺がこの本丸にやって来た時に文字の練習として手頃な紙を使って書き始めたのが始まりだった。刀剣男士たちは与えられている知識に個体差があるらしく、俺は字を書く事が下手だったのだ。
 大分ましになった文字で目一杯の気持ちを書いて、今度はそれを折りたたむ。折り鶴とか風船とかやっこさんとか作れるけれど、手紙をその形にするのは違うと思っているからだ。
 綺麗に折りたたんだ手紙は真っ赤な色をしている。赤い折り紙にはとびきりの愛情を込めて。何てことは赤は情熱の色だと聞いてから考え始めたことだけれど。

 本丸が騒がしくなる。自給自足ではまかなえない食料などを町へ買い出しに行っていた刀達が戻ってきたようだ。その中にあの刀もいるから、俺は手紙を手にして外へと飛び出した。
 ふわりと香るような風はなめらかで、とても心地良い陽気だ。

 彼は俺に気がつくとふわりと笑って近づいてきてくれた。俺も彼に駆け寄り、話しかける。お疲れ、いいものは買えたか。そう問いかければ、いいものが買えたと彼は嬉しそうにした。それにつられて嬉しくなりながら、そういえばと手紙を差し出した。
「これ」
 どうぞと渡せば彼は驚いた顔をしてから、また笑って受け取ってくれた。
「部屋に帰ったらじっくり読もう」
「いつもと同じような内容だけど」
 同じじゃないさと彼は笑う。
「手書きの文字は一つとて同じものはない」
 宝物が増えたと嬉しそうにする彼に、俺は少し羨ましくて口を開く。
「返事くれよ」
「分かっているさ」
「俺も宝物にするから」
 貴方の愛の言葉を一つだって取りこぼしたくないから、手紙はいくつあっても宝物だって、そう言えば彼は俺も同じさと笑っていた。

 まろやかな風がするりと部屋に入り込む。障子を開いて光を取り込んだ彼の部屋、俺はごろりと寝転がって彼が手紙をしたためるのを待っていた。彼の手の中にはボールペン、折り紙は桃色。

 やわらかな風の中、恋の色だそうだと笑って差し出した貴方は少し意地悪な筈なのに、いつもと同じ優しさをもって俺を見つめていたのだった。

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