うぐしし/はっぴーわーるど/イメージワード:ピアノ・パレード(夜のロック)


 夜の闇の中、灯りに照らされて君の顔が浮かぶ。
 洋装で本丸の外を歩く。現代日本より少し先の未来だという、夜の歓楽街のようでありながら外国のようなそこを俺は獅子王と歩いていた。レンガの道を二人で歩いていて、獅子王の方はふらふらきょろきょろと辺りを見回していた。
 とある歴史修正主義者の一派を殲滅した。その結果、失われる未来があるという。ある筈がなかった未来は無くなることが当然であるのだろう。しかしその未来がなかなか良い繁栄をしているからと、主は内密に俺たちをその未来であるこの地に送った。
 崩れゆく世界には失われる人間達で賑わっている。まるで物語の中のような、メルヒェンとファンタジーを感じる洋服をまとって彼らは和やかで楽しそうに暮らしていた。
 彼らは今も進む崩壊を認知できないという。直された世界で、果たして彼らは生まれているのだろうか。生まれたとしても、この否定された"今"と同じ幸せを持ち合わせるていることができるのだろうか。
(まあ、俺の知ったことではない、か。)
 いちいち一つ一つを嘆いていては刀剣男士で在れなくなってしまうだろう。そう考えているとくいと腕を引っ張られた。振り返れば、電飾のような灯りに照らされた金色を揺らして、獅子王が笑っていた。
「なああっちでわたあめ売ってるぜ。」
 食べようと無邪気に笑う彼はこの世界をどう思っているのだろうか。優しい刀だが、その優しさの全てはじっちゃんという男により形成されているようなものだ。じっちゃんの歴史を守ることを大事にしている彼が、このある筈のない未来を良い目で見ているとは思えなかった。

 桃色、黄色、緑色。そんな風に色鮮やかなわたあめを一つ購入し、獅子王に渡すと彼は笑って礼を言った。
「俺もお小遣いがもらえてたら自分で買ったんだけどなあ。」
「この未来の通貨は貴重らしいからな。まあ、そういうことだ。」
「あ、ひっでえ! 無駄遣いなんてしねえのにさ。」
 彼はわたあめをひとつ摘んで手に取ると口に含んだ。そして嬉しそうに次、また次とわたあめを口に入れていく。途中でハッと気がついて恥ずかしそうにしていたが、気にすることはないと頭を撫でてやった。たとえこの未来の人間達がきみの奇行を見て知ったとしても彼らはすぐにでも消えてしまう存在なのだから。
 わたあめを食べることがひと段落したらしい獅子王がべたべたとする指先を持て余しながら呟く。
「鶯さんは楽しくなさそうだな。」
 そんなことはないと言おうとして、それは取り繕った言葉だからと口を閉じた。楽しくないわけではないが、楽しいと言えるものではない。辛く苦しいわけではないが、辛いとか苦しいとかとは違う気がした。
 心というものは未だよく分からないなと思った。
「なあ鶯さん。次はあっち行こうぜ。」
 そしたら鶯さんの好きな茶があるかもと、彼はとても楽しそうに笑っていたのだった。

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