完璧な嘘をよろしく/うぐしし/あまやかなはなし/解釈:嘘をつくというのなら完璧なものを頂戴/互いの気持ちは察しているけど付き合ってない怖がりの話


 冬の中。
 今日は寒い季節だ。ここしばらく冬景色の広がるこの本丸は、あと三ヶ月は冬のままだろう。三ヶ月周期で景色を変える審神者の言い分は、四季とは美しいものだというもので。
 しかし寒いものは寒いのだ。火鉢の前で震えていれば、と、と、と静かで軽い音がして一振の刀が姿を現した。寒そうだな獅子王。そう言った刀は鶯丸で、あんたこそ寒そうだと彼の鼻を指差してやった。
 向こうに炬燵があっただろうにと鶯丸は呆れ顔で、ここに無いなら意味が無いと返事をした。ちらりと彼を伺えば俺の言葉に目を丸くし、それから愉快そうに笑んだ。上機嫌だなと珍しく単純な彼に少しばかり呆れながらも、俺もまた気分が上向きになっているのだから何も言えない。俺が彼を待っていた部屋は彼の部屋だった。
 物の少ない彼の部屋で待つのはこれが初めてではない。彼が外に出るたびに繰り返しているものだから、本丸の刀剣男士たちの中には俺と鶯丸が同室だと思い込んでいる奴もいるらしかった。それを踏まえてなのか何なのか知らないが、鶯丸から相部屋にするかとよく誘われる。だけど俺はそれを断り続けていた。そして俺は断る理由を言わないように気をつけ、鶯丸も聞かなかった。それが少しだけ心の痛みに繋がった。
 火鉢から離れて、戦装束から普段着に着替えた鶯丸に抱きつく。無言でぺたぺたと彼の体を触って、怪我がないと確認して安心し、離れる。そしてまた火鉢の近くに座った。その間の鶯丸はされるがままになってくれるので有難い。最初の時は流石に不思議そうにしていたが、これがただ俺の自己満足だと分かったぐらいの頃には、何も言わずにただされるがままになってくれるようになったのだ。
 今日も鶯丸に怪我がないから良い日だと呟けば、お前が心配するからなと笑う。少しばかり茶化した言葉にムッとすれば、嬉しいことだと続けて俺の隣に座った。
 火鉢のそば、隣同士。距離は拳二つ分だろうか。寂しくはなかったが少しだけ心が痛かった。
「獅子王は難しい。」
 鶯丸がそんなことを言うので意味がわからないと見上げれば、彼は前を向いて雪景色を眺めていた。けれどその瞳はどうも雪を映しているように見えない。
「何のことだよ。」
 そのことだと鶯丸は答えた。また意味が分からないことを言い出したと俺は判断し、そうかと適当な相槌を打った。火鉢を眺めて暖をとることに気をやっていると、鶯丸がまた言う。
「そうだというなら、許せ。」
 そんな言葉に違和感を覚えて彼を見れば、彼がこちらに向いていた。そのまま腕が伸びてきて俺の肩と胴体を触り、引き寄せられる。抱きしめられたと分かった瞬間に、ぐらりと腸(はらわた)がひっくり返る感覚。
 やめてくれと叫びたかった。
「獅子王はうすいな。」
 彼の腕と体が温かくて、だからこそはね退けたかった。押して、突き飛ばしたかった。
 だけど俺は動けやしないのだ。
「共にいたい。」
 すぐ近くで囁かれた言葉はあまりに残酷で、だから俺は皮と皮がへりついたような喉から声を絞り出した。
「言うのなら完璧なうそをくれよ。」
 俺は溺れ落ちたくないんだ。



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