脈拍だとか、告白だとか、青痣だとか、さよならだとか/うぐしし/テーマ:星夜にわらうあなた/告白話


 深い夜の日だった。月が沈んだ、星々の夜中。その星空を、獅子王と鶯丸は並んで眺めていた。獅子王の手には星座図。星好きな主が使い方を教えてくれたのだと言った獅子王に、鶯丸がならば今夜使おうと言ったのが真夜中の密会の始まりだった。
 密会というほど妖しい秘密を持つことはしていない。ただ逢瀬というにはお互いに愛を囁かないし、そもそも恋仲でもない。ただ、星座図をその日の空に合わせ、あれこれと星座を探すのが、二人の密会の全てだった。そうであったのだ。

 獅子王が星座図を両手で大事そうに持ち、今日の空にメモリを合わせる。それを鶯丸は湯呑みを片手に眺め、やがて準備ができると獅子王に今日の見頃はと聞いた。獅子王がすぐに見頃とかわからないけどと前置きをして口を開いた。今日もたくさん出てるから、ひとつひとつ探そうぜ。そうして優しく笑う獅子王に、鶯丸は時間はあるからなと笑みを返した。
 星座だけではなく、星の名前や、逸話を二人は話す。どれもこれも星が好きな審神者が皆に教えた情報だが、二人は楽しそうに、互いの知識を確認するように会話を弾ませた。
「オリオン、とかげ、カシオペア……あ、見てみろよ鶯さん。」
「ん、何だ。」
「こぎつねだって。」
 小狐丸みたいな名前だな、獅子王の唇が刀の名を形作る。鶯丸は少しだけ目を見開いたが、獅子王はそれに気がつくことなく星座図に視線を戻した。星座図と星空で視線を行き来させる獅子王の、その姿を鶯丸はじっと見つめる。ひやりとした空気がする季節だ。もうこの本丸は秋の頃合いだった。
 視線に気がついた獅子王が鶯丸へと顔を向ける。鶯丸はその手で持っていた湯呑みを側のお盆に置き、真っ直ぐに獅子王へと手を伸ばす。二の腕を強く掴みその頬に手を滑らせ、視線をがんじがらめにするようにしっかりと絡める。
 獅子王はいつもと様子の違う鶯丸に動揺し、何度か瞬きをしてからその名をいつもより不安気に呼んだ。その声に鶯丸は返事をすることなく、むしろその声を食べるかのように口付けた。獅子王は驚いて目を落とさんばかりに開いて、急いで星座図を床に置いて避難させる。そして鶯丸を引き離そうとその体を押すが、身長差や身体能力の面で劣る獅子王が彼を引き離すことは出来ずにいた。しかしそれほどかからずに離された口付けに、獅子王はハッと息を吸い込む。続けて顔を近づける鶯丸に混乱しながら口を結ぶ獅子王に、鶯丸は触れるだけの口付けを数度繰り返してから体を離した。
 体を真っ赤に染めて、どうしてと繰り返す獅子王に、鶯丸はうっすらとわらう。その笑みは優しさよりゾッとするような恐ろしさを感じさせるもので、獅子王はまるで被食者にでもなったかのように抵抗する気を無くしたのだった。
 何も言えなくなった獅子王に、鶯丸は微笑みを浮かべながら語りかける。嗚呼、痣になってしまうな。その言葉通りに最初に鶯丸が掴んだ二の腕には指の痕が痛々しい赤色で残っていた。しかし獅子王はそれを見ることなく、動かぬお人形にでもなったかのように虚空を見つめていた。鶯丸はその様子を気にすることなく腕の痕に手を這わせ、それから手を離したと思うと首筋に手を向かわせたが、途中でその腕は動かぬ獅子王を抱きしめに向かっていた。ぴくりと震えた獅子王に、鶯丸は言う。
「好きだ。」
 獅子王は目を見開き、目の焦点を合わせ始める。鶯丸はもう二度同じことを繰り返してから言う。
「鼓動が聞こえるな。」
 互いの心臓の音を指した言葉に、獅子王は頷いた。鶯丸は続ける。
「星の命は長いそうだ。その中で、星は一瞬のきらめきを地上の者に見せる。俺たちも長く生きてきた。その一瞬で、俺はきみに恋愛感情を抱いた。」
 うん、と短く相槌を打つ獅子王に鶯丸は優しい表情を浮かべた。そしてきみが好きなのだと続ける。
「醜い欲すら含むこの感情を受け入れてくれるか。」
 鶯丸は穏やかに告げる。
「逢瀬というのに他の刀の名を呼ぶものだからな、これがまあ、嫉妬というやつだ。」
 嫌か、と聞く鶯丸に獅子王は少し考えてから頭を横に振った。嫌じゃなかった、と。
「でも少し怖かった、かも。」
「そうか。」
「だから、理由がわかったら、もう怖くもないからさ。」
 獅子王はそっと鶯丸の背中に手を伸ばし、その腕で鶯丸を抱きしめ返す。それが何よりも分かりやすい返事だったのだろう。鶯丸は体を少し離し、とろけるような笑みを浮かべて獅子王の唇へと口付けたのであった。



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