08:近くにいるのにどこか遠い/一期視点


 獅子王殿はときどき忘れそうになるけれど、生まれは平安の刀なのです。
 今日も弟たちと遊んでくださった獅子王殿に礼を兼ねたお菓子を持って獅子王殿の部屋に向かいました。その部屋はこの本丸の角部屋で、同じく角部屋の三日月殿とは真逆の方向にあるお部屋でした。部屋の前に立ち、失礼しますと声をかければ、中で鵺にもたれて休んでいた獅子王殿が目を開いて一期だと笑ってくださいました。
「すみません、起こしてしまいましたか。」
「いや、寝てないから大丈夫。手の中のは何だ?」
「どーなつという菓子です。お茶より牛乳が良いと聞きましたので一緒に持ってきたのですが……。」
「そっか、それなら机に置こうぜ。ちゃぶ台出すから待っててくれ。」
「そんな、獅子王殿はお疲れでしょう。私が出しますのでそこにいてください。」
「いーからいーから。一期はそこで立ってること!」
 びしっと言った獅子王殿に思わず頷いてしまえば獅子王殿はにっこりと笑って立ち上がり、部屋の隅に立てかけてあったちゃぶ台を組み立てて部屋の中心に置きました。その上にお盆を置いてドーナツの盛られた皿とコップに入った牛乳をそれぞれにと置けば、獅子王殿は嬉しそうにそれじゃあ食べるかと笑いました。
 ふわふわとしたドーナツを食べて弟たちについての会話をしていれば、誰かがおいと声をかけました。振り返ればそこには小狐丸殿が居られて、私は自然と姿勢を正しました。
「それは何じゃ。」
「どーなつだってさ。ふわふわしてて美味いぜ。」
「甘い匂いがするのう。」
「甘い菓子だしな。」
「しかし私はぬし様に団子をいただいた故、失礼する。」
「そうかーじゃあな!」
 去って行く小狐丸殿に手を振る様子に、仲が良いのですねと言えばそりゃあと獅子王殿は答えられます。
「生まれた時期がそこそこ近いらしいし、あれでなかなか馬が合うんだぜ?」
 面白い奴だしと笑った獅子王殿に、私はそうですかと答えてドーナツを齧りました。

 獅子王殿はときどき忘れそうになるけれど、生まれは平安の刀なのです。それをそう突きつけられてしまえば、私は黙るしかないのでした。

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