じじしし/かみさまかみさま/テーマ:夢見たぼうや、暁に死す:憧れに当てはめたことを謝罪せよ/憑き物に憑かれた獅子王さんの話/獅子王視点


 きっとこれは偶像崇拝だったのだ。
 三日月はまるで絵の中のかみさまのようだ。綺麗で、穢れのない、美しいかみさま。だから俺はいつもそっと三日月を見ていたし、なるべくその視界に入らないようにした。じっちゃんの記憶で生きる俺とは違い、三日月は広い視野を持っているから、矮小な自分が恥ずかしく思うのだ。
 三日月はいつも自室の近くの縁側に座っている。いつも誰か彼かが三日月の近くにいて、和やかだったり楽しそうだったり、時には真剣な様子で来訪者たる刀剣男士と会話をしていた。来訪者と言わず参拝者と言ってもいいのかもしれない。三日月はほんとうにかみさまみたいなひとだから。
 三日月の瞳には月がある。そう教えてくれたのは今剣で、それに俺はとても驚いて、でも納得した。あのかみさまの三日月にはとても似合う神聖さがあると俺は歓喜した。
 三日月はいつも穏やかに笑っている。何もかも許すかのような微笑みは母ようなのに、いつもどこまでも見守る父親のような性質をもつひとだ。それはいつか審神者の主が読んでいた本の中の神様のようで、ああこれこそ三日月をかみさまたらしめるものだと俺はいつも考えている。
 嗚呼!三日月の名を持つ刀剣男士のあなたは かみさま なのだ!
「獅子王。」
 驚いて振り返れば、あの三日月が立っていた。かみさまを目の前に俺は目が眩んで俯いてそれから頭(こうべ)を垂れる。
(ああどうしてここに!)
 三日月は縁側にいる時間でないのか、どうして話しかけるのだ。本当はここから逃げ出してしまいたいけれど、名前をその口から呼んでもらった以上俺は逃げることなどできないのだ。だって三日月はかみさまなのだから。
「お前は何故俺を避ける。」
 ゆっくりとした問いかけに俺は驚いてしまう。だってかみさまが俺を見ているはずがないのに。
「顔を上げなさい。」
 その声に逆らうことなくゆっくりと顔を上げる。かみさまの姿が見えて、かみさまが俺の姿をとらえていた。
「理由を言えるか。」
 そんな不安そうな問いかけに、俺は驚いて目を見開く。嗚呼、三日月の月がゆがんでいる。
(ちがう)
 かみさまはそんな顔をしないのに!

 気がつけば男の腕の中にいた。青い着物がやけに鮮明だった。耳の中へ注ぎ込まれるかのような、静かな声がする。
「落ち着け。お前は少し つかれて いたんだ。」
 その男の声は何か俺を誘うようで、俺はそっと目を閉じてその微睡みに身を任せた。

 その瀬戸際に、ふと三日月宗近という刀を思い出したのだった。

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