06:思い切り甘えたい!/獅子王視点


 久しぶりに全員が揃っての花見の宴会。その夜中。部屋の中で俺は考える。それは一期のことで、裏の小屋で一期に会って以来、やっぱり甘えた方がいいのかなと強く思い始めたのだ。
 だってやっぱり誰にも甘えないのは俺が精神的にきついし、それに頼っていることを一期にきちんと伝えた方がいいなと感じたからだ。一期は何だか不満みたいだったし、思い詰める癖のある一期がもしもっともっと考えて思い詰め始めたらそれは俺の本意じゃない。でも、でもである。俺は結構一期のことを年下扱いしてきたわけで。
(今更甘えるのは、ちょっと恥ずかしい。)
 事実、一期は俺より若くて、情熱的だ。つまりわりと突っ走って衝動的に行動したりする。わきまえているように思ってるみたいだけど、全然そうじゃない。外で見せる姿と二人きりで見せる姿がごちゃごちゃで、きちんと切り替えられてないように見える。だからそんな一期を引き止めて、公的な場所とプライベートな場所とをしっかり分けるようにさせるのが役目だなんて思ってるのが俺であるし、年上の役目かななんて思ってるのだ。
 だからいつも一期を引き止める側なので、甘えるのは少し、いやかなりハードルが高かった。
(でも一期、不安そうだったし。)
 俺が恥ずかしいぐらいで一期が安心できるなら、と。俺の精神面はほっといて最終的にそんな結論になって俺は一期の部屋へと向かった。

 夜中、一期の部屋の前。
 一期は主の仕事を手伝うことが多いので一人部屋だった。それは優遇じゃなくて、部屋に多くの書類を置くことになる上に夜中まで灯りをつけて書き物をしたりするからだ。
 深呼吸をしてから声をかけて、返事を待ってから障子を開く。そこには驚いた顔の一期がいて、俺は後ろ手で障子を閉めてから、あのさと声をかける。
「あの、」
「はい。なんですか……?」
 甘えさせて。と、ちゃんと言えたかな。
 早足で一期に抱きつく。胸に頭をすり寄せて、いつの間にか止めていた呼吸を再開する。胸いっぱいに広がる一期の匂いに俺は一期が帰ってきたのだと実感した。三日もいなかったから心配したし、不安だったのだ。
 無言の俺に一期は何か言って慌ててたけど、そのうち落ち着いて俺の頭を髪を解くように撫で始めた。穏やかなそれに心がほぐれていくようで、俺は安心する。一期もそうだといいな、なんて思いながら背中に回した腕をもっともっとと伸ばす。一期は俺の背中をぽんぽんと撫で始めて、それが心地良くて、俺はとろとろと眠りに引き摺り込まれてしまったのだった。
 そうやって眠る間際、一期が嬉しそうに笑ったような気がした。

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