薬獅子/金平糖を噛む/兄弟ごっこをやめたい薬研さんとまるで気がつかない獅子王さん


 手を出せと言われて右手を開いて差し出せば、黒い手袋に包まれた指先から俺の手のひらにころりと何かが転がる。少し透明感があって、痛くはないけどとげとげしてて、小さいもの。
「金平糖?」
「ああ、いち兄が俺たちにくれたんだ。」
「俺たちって藤四郎の?」
「いや、俺っちと獅子王にだよ。」
 意味がちょっと分からない。

 曰く、一期一振は俺を弟たちと似たように思っているらしい。なので、よく弟たちと面倒を見てくれている兄達にと金平糖をくれたらしい。いや、何でだ。
「俺これでも一期より年上……。」
「まあ、いち兄は気にしてないってことだな。」
「というか厚だって兄だろ。」
「まだここに厚はいねえな。」
「そうだった。」
 元気かな、早くここに来ればいいなあと話せば、そうだなと薬研は言う。
「まあ今は仕方ないぜ。というわけで、金平糖な。」
「おう。」
 指先で持ち上げて少しだけ太陽に透かしてその半透明を楽しんでから口に含む。甘さに嬉しくなれば、隣で薬研がガリッと噛んでいた。まあ、だろうな。
「歌仙に見られたらうるさいぞ。ていうか一期に見られても、か。」
「あー、言われるな。」
「というかそもそも雅の問題じゃなくて癖か。薬研いつも飴玉とか噛んでるよな。」
「まあな。治せと言われるが、なかなかな。」
 難しいよなと返してころころと金平糖を楽しんでいるとふと薬研の手が伸びる。何かと思えば指先で俺の唇を触る。ふにふにと触感を楽しむように触るので何かと問おうと口を開けば、そのまま口の中に指が侵入してくる。
「は、ふぁに、」
「いや、何。美味そうだなってな。」
 いや、何言ってんだこいつと思っていれば薬研はニィと笑う。あ、やべえ逃げよと思っていれば頭の後ろに手を回されて口の中を指がぐるりと一周し、歯をなぞり、上顎をなぞる。ほんとに何してんだこいつ。いい加減にしろよと指を噛めば薬研はおお怖いと指を抜いた。全く、と言ってから金平糖を味わおうとして、気がつく。金平糖が口の中になかった。
 まさかと思いながら急いで薬研を見れば黒い手袋に包まれた指が濡れていて、自身の口の中に何かを放り込んで、がり。
「おい。」
「うまい。」
「おい!!」
 思わず言えば薬研は楽しそうにガリガリと金平糖を食べていて、もう怒りをどこに向ければいいのか分からなくなる。だからとりあえず心の向くままに拳を握りしめて。
「なんっでだよー!!」
 叫んどいた。

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